…最初の二体。
大昔に造られた、最初で最後のホムンクルス。
だが、それを実際見た人間はいないため、あっちじゃ最早その存在は幻と化している。
実際、俺も半信半疑だった。
「そんなもの、本当いるのかよ?」
「いるよ。」
カノンは確信を持ってそう言った。
「俺はまだ人狼としては若いから、あんまり難しい話は教えてもらってないんだけどね。」
数百年前、とある錬金術師が生きた子供から錬成したホムンクルス。
カノン自身も見たことはないらしく、こっちの社会でもその存在はにわかには信じがたい事実だったようだ。
「最近ちょっと気になる噂があってさ。」
「噂?」
「うん。なんでも、教会がその二体を捕まえたらしいんだ。」
カノンの言葉に、俺は言葉を失った。
「ぁ、あくまで噂だよ!?でも、"上"はその可能性を高く見てる。バダップや鬼道さん、それにひい祖父ちゃん。重役達の集まる今日…今回の舞踏会は、ちょっと訳が違うんだ。」
「情報交換も兼ねての対策会議か、お偉いさんは大変だな。」
他人事のようにそう言えば、カノンはそんな俺を見て少し笑った。
「みたいだね。俺もそこまで危険視する必要は無いと思う。第一首輪の無い本物が、大人しく教会の言う事聞くとは思えないし、それに万が一噂が本当だったとしても、二体位なんとかなるよ!」
緊張の糸は、もうすっかり切れていた。カノンの表情も晴れていたので、俺は安心した。
「けどよ、ナマエは何でまた…。」
「んー、それは内緒。」
「はあ?」
「ナマエは本物を探してるってことを、バダップにだって秘密にしてるんだ。現場を見られちゃった君だから教えてあげたけど、やっぱり気になるんならナマエ本人に聞かないとね?」
「…そーかい。」
あいつが秘密をそう簡単に教えてくれるとは思えねえけどな…。
「…なあ、もう1つ聞いていいか?」
ふと、俺の頭には1つの単語が浮かび上がった。
ずっと気になってたこと。
しかしそれを訊ねていいものかと、躊躇っていた。
初めてあいつの話をした時、ナマエは哀しそうな顔をしていたから。
「いいよ、何?」
先程の質問以外なら何も隠すことは無いといった風に、カノンは俺を見ので、俺は意を決して、唇を動かした。
「ナマエの飼ってた、猫のことだ。」
俺の質問を聞くと、カノンは少し困ったような様子を見せて笑った。
「ああ、ヒロトさんのことだね。」
ヒロト。
頭の中で、声も出さずに復唱した。
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