「はじめまして、俺は円堂カノン。人狼だよ!」
俺の腕を掴んだままのそいつは、やけに元気な声でそう言った。
…ん、人狼?
しかもカノンって名前どっかで…。
「お前まさか、あの時の!」
「あ、覚えててくれたんだ!嬉しいなあ!」
そうか、こいつナマエと一緒にいた狼!
その姿からは、あの獣の恐ろしさは到底想像出来ない。
カノンが俺に懐いてるのを見て、不動は少し驚いた顔をしていた。
「何だ、お前等知り合いだったのかよ?」
「いや知り合いっつーか、」
「ナマエがこの人を拾った時に一緒にいたんだ。あ、そういえば名前聞いてなかった!何て言うの?」
「ぇ、エスカバ…。」
「エスカバか、うん、よろしく!」
「よろしく…。」
なんつーか、人狼にしては随分と人懐っこいな。
つっても、実際人狼に会ったこととかねえけど…。
「元気になって良かったね、心配してたんだ。」
人狼の寿命は人間よりずっと長い。
身長こそ俺の方が高いが、あのサイズの狼ってことは、おそらくカノンは俺より歳上だ。
隣を見れば、不動は少し離れたところにいて、どこに行くのかと聞けば、
「挨拶だよ挨拶。ちょっくら、そいつのひい祖父さんに会いにな。」
と、ひらひらと手を振って人混みの中へ消えてしまった。
あいつが挨拶に行く位なら、カノンのひい祖父さんってよっぽどスゲー奴なんだろうな…。
「エスカバ、」
「?」
不動の消えた方向を見ていると、カノンが先程とは違う低いトーンで俺を呼んだ。
再び振り返れば、カノンは既に俺から腕を離し、その顔から笑みを消していた。
「最近、ナマエどう?」
「どうって…」
「さっきバダップから、君がナマエの監視を任されてるって聞いたんだ。ナマエ、また教会の施設を襲おうなんてこと、考えてないよね?」
周りを気にしてか、小さな声だ。カノンの表情は真剣そのものだったが、ナマエが何を考えてるかなんて、そんなの本人にしか分からない。
バダップにも厳重注意を受けただろうから、考えてはいてもそう簡単には動けないはずだ。リスクのデカさを考えれば、再犯は無えだろうが…。
「今のところは何もねえよ、至って平和だ。」
俺がそう言うと、カノンは安心したように胸を撫で下ろしていた。
「そっか、良かったぁ。まあ、あんなことに協力する奴なんて俺ぐらいだから、大丈夫だって分かってるんだけど、やっぱり心配で。」
少し表情をやわらかくしたカノンに、俺はそういえばと質問を投げ掛けた。
「…なあ、お前等はなんであの日あそこにいたんだ?」
そう聞くと、カノンは周りに聞かれるとまずいからと、俺をバルコニーへと促した。
バルコニーに出ると、一瞬穏やかな風が髪を掬った。
音と光からはずれた空間。
内緒話をするにはもってこいだ。
チラリと一度、後ろを確認するように振り返ると、俺の隣に立ったカノンは口を開いた。
「ナマエはね、ホムンクルスを探してるんだ。教会の作った偽物なんかじゃない、"本物"をね。」
本物って、まさか。
「完全体のホムンクルス…。」
まさか、ナマエはそいつらを使って教会をブッ潰そうとでも考えてんのか?そう問えば、カノンは首を横に振った。
「違うよ。ナマエが探してるのは、"最初の二体"なんだ。」
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