ロビーに下りると、バダップとミストレ、それにナマエが何か話しているところだった。
なんとなく入りづらい雰囲気だったから、俺は階段の途中で足を止めた。
しかし俺に気付いたバダップに呼ばれたので、俺は止まっていた足を動かした。
「どうお兄様、私が見立ててあげたのよ?」
「…ああ、中々様になっている。」
そう言う二人を横に、ミストレは俺を見て舌打ちをした。
「ちょっとナマエ、これどういうこと?」
憎々しげにそう言い放つと、ミストレは俺を親指で指した。
「何が?」
「首だよ。"印"なら、首輪が駄目でも指輪を着ければよかっただろ?」
「指輪だと効率が悪い。虫除けには向かないでしょ。」
「だからって、」
「ミストレ。」
口を尖らせるミストレに、バダップは軽く息を吐いた。
「"お前"がエスカバを気にする必要は無いだろう。」
「それは、そうだけど…」
「時間が無い、話を元に戻す。」
「あーあ、はいはい。」
バダップは俺を見て、話を切り出した。
「俺達の"社会"は人間とは切り離された世界に存在していることは知っているだろう。よって、その重要施設等も同族以外には知らせないこととなっている。」
「つまり?」
「こういうことだ、よ!!」
「がっ!!!?」
俺が首をかしげると、ミストレの拳が腹に入った。
初めから気絶させるつもりだったのだろう、俺は意識を手放した。
*
「あ、起きた。」
目が覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。
ベッドの隣に置かれた椅子にはナマエが座っていて、体を起こすと、腹にチクリとした痛みが走った。
「痛ってぇ…あの野郎、手加減無しかよ…。」
「当然でしょ、貴方はホムンクルスなんだし。普通の人間だったら内臓が壊れてるわね。」
さらりとおっかねえことを言ったナマエに、俺はどういう反応をしたらいいのか分からなかった。
「気分はどう?歩ける?」
「まあな…。つかここどこだよ?」
窓の外はすっかり暗くなっていて、かろうじて夜だということは分かった。
「会場のお城。招待客にはそれぞれ宿泊用の部屋が用意されていて、ここは私のお部屋よ。」
「へぇ…。」
客室にしては、随分と豪華な部屋だ。
まあ城っつー位だからな…。
「目が覚めたんならさっさと行くわよ。いつまでもこんなところに引きこもってるわけにはいかないし。舞踏会は私にとって、大切な社交場なんだから。」
「ん、悪ぃ。」
ベッドから降りて立ち上がると、ナマエが俺の左腕に自らの腕を絡ませた。
「女性のエスコートの仕方は覚えたでしょ?」
期待に瞳を輝かせるナマエの声を聞いて、俺は覚えた通りに腕を曲げた。
「勿論。」
誇らしげにそう答えると、ナマエは可愛らしい笑顔を浮かべた。
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