*
「エスカバ、貴方踊れる?」
「いきなり何だよ。」
鏡台の前でナマエの髪を梳かしていると、ナマエが答えが聞かなくても分かるような質問をしてきた。
「踊れるわけねぇだろ。」
「うん、まぁ…そりゃそうよね。」
「んだよその反応は、分かりきったこと聞きやがって。」
ナマエの人を小馬鹿にしたような反応が気に食わず、俺は持っていたヘアブラシでナマエの肩をパシパシと叩いた。
「あー、ごめんごめん。ほら、いじけてないでちゃんとやって頂戴。」
「……。」
浅いため息をついて、再び髪にブラシを通す。ナマエが鏡越しに俺を見ているのが分かって、なんだか変に緊張した。
「じゃあ練習しないとね。」
「…何を?」
「ダンス。」
そんなの覚えても意味無えだろ。
そう言えば、ナマエはそんなことはないと否定を返した。
「だってお前、んなの何のために…」
「一週間後。」
一週間後?
「情報交換や社交場、娯楽の場として、季節に一度、定期的な舞踏会が開かれてるの。」
「この前言ってたパーティーって、もしかしてそれのことか?」
「うん。だから練習しないとねって話。」
一週間って、結構早えじゃねえかよ…。
「つーか、俺を連れてって大丈夫なのかよ?」
「あ、一応行く気はあるんだ、良かった。大丈夫よ?なにも吸血鬼ばかりが集まるわけじゃないの。人を飼ってる吸血鬼だって珍しくないし、連れて来ても問題はないもの。」
"飼ってる"って言い方どうかと思う。
「カノンにも改めてお礼言わないといけないし。」
「カノン?」
新しい名前の登場に首を傾げると、ナマエは爪を磨きながら答えた。
「覚えてないの?カノンが貴方をここまで運んでくれたのよ。」
「もしかして、あの狼のことか?」
「そ。あ、私がカノンをあそこに連れて行ったことはまだばれてないんだから、くれぐれも内緒にしてね。」
分かってると返事を返し、細い髪の毛にリボンを飾った。
「うん、随分器用になったものね。」
「誰かさんに小煩く言われたおかげでな。」
*
「はい、靴脱いで。」
午後。
ナマエが直々にダンスを教えてやると言ったので、素直に頷いて立ち上がった結果、ナマエは俺の靴を指差してそう言い放った。理由を問えば、「踏まれたら痛いでしょ?」と呆れた顔をされた。
あ、お前は脱がねえのな、そりゃそうか。
「痛"っ!!?」
「あーもう、ちゃんと合わせてよ!!」
いやとりあえず謝れよっ!!
―――――――――――