朝食を食い終わると、ナマエはあのミストレっつー奴と出掛けて行った。


吸血鬼と人間の見た目の違いなんてものは、精々顔が整い過ぎてる位だ。
日中間の行動も平気だし、国が彼等と友好的なことから、美しい吸血鬼に対して好意を抱くミーハーな人間だって少なくない。



俺はバルコニーの扉を開け、室内側にあるソファーに横になり、先日ナマエに渡された本を読んでいた。

日の光の暖かさが身に染みる。
背の高い木々の奏でる音が懐かしい。



「餓鬼の頃は、こんな字ぃばっかの本、投げ捨ててたな…。」



内容を理解しながら読み進め、

暫くすると、邸の使用人が紅茶を持ってきた。

俺が良い意味で、頼んでねえのにと呟くと、あっちも「ナマエに頼まれてるからな。」と友好的な笑みを浮かべた。


使用人、というか、どうやらそいつもミストレと同じ、ナマエの"お兄様"とやらの部下らしい。


それからそいつと少し話したのだが、なんでもついさっき、そのお兄様、
もとい邸の主が帰ったらしい。


言い方は気に食わないが、ナマエはまだ、俺の"飼育許可"ってのを得ていない。
ナマエがいないうちに、うっかり俺が先に会ったらまずいことになる。

しかも、吸血鬼はホムンクルスと人間の見分けがつく。
なんでも"匂い"とやらが違うらしい。

うっかり不法侵入者やら外敵なんかと勘違いされて殺されるってのも笑えない話だ。
仮に攻撃されたとしても、全回復した今なら吸血鬼一体位なんとかなるか……?。















人の来た気配がして、俺は読んでいた本を閉じた。



時間も時間だし、ナマエが帰ったとばかりに扉を振り返ったのだが、そこにいたのは知らない男だった。



「……?」



げ、この流れは。



「君は……誰だ?」



「えっと……。」



ナマエと同じ白銀の髪に紅い目。

肌の色こそ違えど間違いない、こいつ確実にナマエの言ってた"お兄様"じゃねえか。



「……ホムンクルスか?」

「っ、」



俺がそうだと分かった途端、そいつの雰囲気が変わった。
今までに感じた事の無い、とてつもない威圧感。
流石、この辺りを締めてる吸血鬼ってか?



「……そんな呑気なこと考えてる場合じゃねぇな。」



蛇に睨まれたカエルってのはまさにこの事だ。


俺の頬が引きつったのと同時。



「お兄様!!」



ナマエの声がした。

緊張が解れて安心したからなのか何なのか、俺の背中にはよく分からない汗がどっと噴き出した。



「ナマエ…。」

「お帰りなさい!!」



ナマエはそいつに勢い良く抱き付いた。



「今回は遅かったのね?待ちくたびれちゃった。」

「ああ…少し野暮用が出来てな。」

「そっか。ねえ、勿論夕食は一緒にとれるでしょ?」

「ああ、問題無い。」

「やったあ!」



ナマエは自分の兄貴にくっついたまま、始終にこにこと笑っていた。

俺にはあんな顔しねえくせに…。



「あ、バダップお帰りー。」

「ミストレ…帰っていたのか。」

「何その反応、悪い?」

「いや、そうではないが……早いな。」

「むぅ、別にオレだってそんな毎日人間の女の子と遊んでるわけじゃないさ。勝手にイメージ作んないでくんない?」



……おい、何だこの蚊帳の外感は。

ちょっとお兄様?
家ん中に(不完全だけど)ホムンクルスいるんだぞ。

何事も無かったかのように和やかトークに華咲かしてていいのかよ。



「あ、ねえお兄様、見せたい物があるんだけど…。」

「ほう、何だ?」




「新しいの買って来たの!今度の舞踏会に着ていくお洋服!」

「いや俺じゃねえのかよ!?」




突っ込まずにはいられなかった。

見せたい物って、おま、服かよっ!






「……フッ、」



三人が同時にこっちを向いたが、ミストレの嘲笑に腹が立った。





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