05




ヒロトと吹雪君達と共に、私は一度その場所を離れた。
そしてまた吹雪君達と別れ、私はヒロトと二人きりになった。


しかしすぐに私は、ヒロトの呼ぶ声も無視して、再び彼の元へと戻ったのだった。


「……。」

頭を抱えてうずくまるその姿は酷く弱々しく、まるで、お日様園に預けられたばかりの頃の私みたいだと思った。

…こんな時、私を慰めてくれたのはいつもリュウジで。頭を撫でてくれた手は、いっつも優しくって、暖かくって…。


以前の"リュウジ"がしてくれたみたいに、頭を撫でてあげようと手を伸ばすと…。


「触るなっ!!」

「きゃ!」


弾かれた手じゃない。
"心"が、じくじくした。


「……っ。」


彼は自分のしてしまったことに気付き、酷く困惑した瞳で私を見ている。謝りたいのか、口を開いては閉じ、何か言おうとしていたけど、どうやら言葉が見つからないらしい。


「平気だよ、気にしてない。」


彼を安心させようと、無理矢理笑顔を浮かべた。彼は、私に怯えているだけ…。
記憶を失ったら、私だって戸惑うもの。彼がおかしいわけじゃない。




「何してるの?」

「ヒロト…。」


追って来てくれたんだ。


「…本当に、"エイリア学園"が、リュウジ達の記憶を消したの?」

「…そうだよ。」

「それは、"お父様"の意思?」

「…うん。」


ヒロトの声は、やけに静かで。けれど、それは確かな"悲しみ"を含んだものだった。






*






「ん…」


目が覚めると、そこは見慣れた自分の部屋のベッドの上だった。


「起きたか。」

「…ふう、すけ?」


まだおぼつかない意識の中で、すぐ近くにいる彼の名前を呼ぶと、彼は私の顔を確認して、フッと笑った。


「ぁ…。キャプテンがそんなに優しく笑ったの…久しぶりに見たなぁ…。」

「そうかな。これでも私は、君には充分優しく接しているつもりだぞ?」

「うっそだぁ…」


だって練習してる時とかキャプテン、けっこーな鬼だもん。口に出さなくても頭ガシガシしてイライラオーラ発するしさ…。


「ねえ、覚えてるかい?」

「何を、ですか?」

「小さい頃、私が風邪を引いたとき。君はいつになく弱った私を、死んでしまうんじゃないかと心配して、始終離れなかったことがあった。」

「あはは…覚えてるなぁ。」


死にそうな程弱った風介なんて、今じゃ想像出来ないなぁ…なんかちょっと見てみたいかも。


「キャプテン、」

「なんだい?」

「ずっとここにいてくれたんですか?」

「…まあね。」

「そっか……ありがとう。」

意識が、徐々にはっきりとして来た。

上半身を起き上がらせ、ふと頬に感じた違和感。


「ぁ、」

「…ずっと泣いていたよ。怖い夢でも見たのかい?」

「ゆ、め……?」




違う、違う、違う。




彼に会ったことも、彼が"リュウジ"としての中身を失ってしまったことも、全部…




「…………。」




全部、本当のこと。







嘘嘘嘘。"大好きな君"のいない世界なんて、全部偽物。



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