02
「随分と落ち着かないみたいだね。」
「……グラン、様。」
振り向けば、そこには私服姿のグランがいた。
「今はヒロトでいいよ、和葉。それよりもさ、ジェミニストームが気になる?」
「ぇ、」
「オレ、ちょっと様子見に行こうと思ってさ。そんなに気になるなら、一緒に連れてってあげようか?」
「いいの!?」
「うん。但し、影から見てるだけだからね?」
「連れてってくれるならなんでもいいよ!」
それじゃあ行こうか。そう言って差し出されたヒロトの手に、私は笑顔で右手を重ねた。
*
ジェミニストームと雷門の試合は、肌寒い白恋中のグラウンドで行われた。雷門は新たに、白恋中のエースストライカー吹雪士郎を加え、チーム全体の能力も、以前よりパワーアップしているようだった。
少し楽しそうなヒロトを横目に、私はジェミニの先制が決まるのを見た。
「やった!」
このままゲームが進んでくれれば…。
しかしそんな私の願いも虚しく。後半、あの吹雪士郎の活躍により、ジェミニは雷門に追い付かれてしまう。
そして、試合は雷門の"勝利"という、私にとって最悪な結果を残して終わった。
*
「ふふ。やっぱり、雷門は面白いね。」
「っ……!?」
笑顔でそんなことを言うヒロトに、私は思わず殴りかかってしまいそうだった。
「君もそう思うでしょ、和葉。
まさかジェミニが負けるなんてね。」
「っ、ヒロト貴方!!」
まさか、こうなることを分かってて私を誘ったの?
「リュウジっ…」
「見てるだけって約束だったよね?」
「っ……。」
駆け寄ろうとしたら、ヒロトに腕を引かれた。
そうだ、今はまだ、マスターランクである私達は姿を見せてはいけない。次に雷門討伐に向かうのは、ファーストランクであるイプシロン。
「ぃゃ…」
グラウンドに膝を着く"レーゼ"から、目が離せない。何やら雷門イレブンと話してるみたいだけど、よく聞き取れなかった。
そして、その場に響いた、刺のある声。それは聞き覚えのあるテノールで…。
「少し喋りすぎのようだな、レーゼ。」
「…っ、デザーム様っ!?」
「……嘘」
紫がかった黒い光と共に現れたのは、間違いなくイプシロン。
「あれが、砂木沼さん…?」
「…そうだよ。もっとも、今はデザームだけどね。」
信じられなかった。だって、彼はあんな目をする人じゃなかった。
小さい頃、幼い私をおぶってくれた背中は、あんなにも優しかったのに。
「あれが、エイリア石の力?」
今すぐにでも、ソレが付いたユニフォームを脱ぎ捨ててしまいたかった。
けれどそんな恐怖も、彼の次の一言によって塗り潰された。
「レーゼよ、たった今お前達を、エイリア学園から追放する。」
「!!?」
そん、な…。
恐れていたことが、遂に現実となった。
全身から血の気が引いて、顔が真っ青になった。
「この地で死に絶えるがよい。」
「っ!!!?」
今度こそ、私は片割れである彼に駆け寄ろうとした。
けれど私の足が動くのと同時、ヒロトの腕にも力が入り、私は後ろからヒロトに抱き押さえられてしまった。
「放してっ!」
「出てっちゃダメだって。」
「嫌だっ!リュッ…むぅ!!」
「声が大きいよ。」
呼び掛けようとしても、ヒロトに口を抑えられて声が出せない。この状況をどうすることもできない自分に、腹が立った。払いのけたくても、女の力じゃ無理な話だ。
こんなお別れなんて嫌。
彼と同じ黒い瞳から涙が流れて、ヒロトの手を濡らした。
諦めきれずに身をよじると、リュウジに貰った髪留めが、カチャリと小さな音を立てた。
ヒロトは淡い光を放つ白と黒が逆転したサッカーボールを取出し、私の耳元で、もう帰った方がいいねと言った。
「……っ。」
双子は心の何処かで繋がっているっていうけど、ホントかな?
ヒロトの白い光に包まれる直前、私は…
「……和葉」
こちらに気付いたレーゼの唇が、そう呟くのを見た。
君を失った日
左半身を失った私に、もう心臓の音は聞こえない。
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