19
『
風介へ。
……手紙を書こうと思っても、今更何を書いていいか分かんないや。
というか、言いたいことがたくさんありすぎるんだよね。
だから大切なことだけ伝えます。
少しね、頭を冷やして、よく考えたの。
やっぱり私、さようならなんて言うべきじゃなかった。…でも、その可能性は、決して低いものじゃない。
だから私は、自分に風介を諦めさせるために言ってしまったのだと思う。
でもね、私、どうしてもまた"皆"と一緒に笑いたいし、サッカーがしたい。
風介にだって、また会いたいよ。
それに……。
…神様が本当にいるのなら、なんて、弱気な事は言わない。
必ず、戻って来るよ。
だからね、決意表明。
これを、預かっててほしい。
風介はもしかしたら、こんなものって、不快に思うかもしれない。けれど、私にとってこれが、一番強い想いが籠もってる、大切にしてたものなの。
……この約束は、今度こそ守ってみせるから。
絶対に、また会おうね?
そしたら、和葉、って、私の名前を呼んでほしい。
』
*
「おいガゼル」
待機用に用意された大部屋には、俺達プロミネンスとダイヤモンドダストのメンバーがいた。
施設の中心部のフィールドでは、雷門とジェネシスが戦っている真っ最中だ。
参加を許されていない俺達は、ただ時が過ぎるのを待っていた。
「…なんだチューリップ。」
「チュ…!?…まあこの際見逃してやる。」
テーブルの端で、手に何かを握っているガゼルの顔は、人一倍に不安の色を滲ませていた。
「だから何だと言っている!!」
理由は明らか。エリオがいねぇ。
探しに行こうとしねぇところを見ると、何か訳アリなんだろう。
「大声出すんじゃねーよ、テメーばっか不安がってっと思うんじゃねえ!」
「……っ、」
「さっきから見てればなんだよ…震えてんじゃねえか。」
「!!!?」
そう、俺が気にしてたのはそれだ。
自分では気付いていなかったのか、指摘されて、ガゼルは酷く困惑したみてーだった。
「こんな時こそ、チームキャプテンの俺達がしっかりしてねーと駄目なんじゃねーのか!?」
「……。」
ガゼルは強く唇を噛みしめ、何かを収めている拳を握った。
そして一息つくと、ゆっくりと瞬きをして、
「…そうだな、悪かった。」
さっきと比べれば、随分と落ち着いたように見えた。
…そんな矢先の出来事だった。
「君達!!」
勢い良く扉を開けて入って来たのは、見覚えのない顔をした大人だった。
「すぐにここを出るんだ!」
「はぁ?テメー何言って…」
「この基地は崩壊する!!今警部から連絡があって、じきにここにも揺れが到達するっ!!」
つーことは何だ?
ジェネシスは…負けた、のか?
「ふ、ざけんなっ!!見ず知らずの奴の言うことなんざ信じられ、」
ガゼルに落ち着けだの言っておいて、俺はその男の言葉に戸惑った。
動揺している俺を静めるように、肩に誰かの手が乗った。
「ヒート…」
「…行こう、晴矢。」
ヒートの目には、少しの苦渋が滲んでいた。そのくせ、これでよかったんだと、その青色が言っている。
横目でガゼルを見れば、ガゼルもリオーネ達と何か話しているようだった。
「…晴矢、」
ホント、何年かぶりにガゼルが俺の名前を呼んだ。
俺は全員へと体を向け、
「…お前等よく聞け!今からここを脱出する!!」
*
外に出て、私はすぐに和葉を探した。
しかし、辺りを見回してもそこ和葉の姿は無く、かわりに随分と懐かしい顔が見えた。
隣にいた晴矢も、目を見開いた。
「イプシロン、それに…」
「…ジェミニストーム。」
いや、正確には"元"か。
どうやら奴等も星の使途内部にいたらしく、私達と同じように、警察の手によって脱出して来たのだろう。
私は手の中にある物を、確認するかのように強く握りしめた。
少し離れた場所に、グランや雷門イレブンの姿も見えた。
そして、一際大きな爆発音が響いた。
地面が揺れ、私達はまともに立っていることも出来なかった。
その爆発から、私は目が離せなかった。
紅い焔、黒い煙に、私達の数年間が、呑み込まれて行く様に見惚れているわけではない、
そんなことじゃないんだ。
「…和葉」
また、怖くなった。
君を失うことが。
だって、嫌な音がしたんだ。
恐る恐る手の平を開けば、
君に預かった髪飾りの花に、小さな亀裂が入っていた。
儚い、君の欠片
約束、したじゃないか。
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