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「期待していますよ。」



お父様の言葉に、ジェネシスである彼等は強い使命感に似た感情を抱いてフィールドへ向かった。



「ご健闘を。」



私も精一杯の敬意を払って一礼をした。










*










ガラス越し、眼下にて繰り広げられる雷門とエイリアの最終決戦。


私は研崎と共にお父様の傍に控え、その試合の行く末を見守っていた。
手中にはスクールバックにも似た黒い皮の鞄。
中にはいざという時のための黒いボールが入っている。昨日、あの風丸とかいう男の子から受け取った物だ。
一瞬たりとも気の抜けない、私にとっては非常に疲れる時間だった。


ふと、それまで雷門側のベンチにいた男の子が立ち上がったのが見えた。



「吹雪君……。」




試合に出るんだね…。



けれども、その足取りはまだ頼りなく、戦力というにはまだ乏しい状態であることが伝わってきた。

そうか、彼は、まだ……。




吹雪君のトラップミス、すると豪炎寺君が、吹雪君に向かってボールを蹴った。



「!!!?」

「お前には聞こえないのか!!」



何故か、ドキリとした。



それはきっと豪炎寺君の声が、心に直接訴えかける、とても力強く、魂の籠もったものであったからだろう。


フィールドを飛ぶボール、それが再び、吹雪君の元へ戻って来た時。

彼の"答え"は
見つかったようだった。






*






モノクロのボールが、光を纏っているかのように輝いて見えた。

雷門イレブンの繋ぐボールの軌道は、やがて……




「ジ・アース!!!!」




幾重もの声は、希望に満ちた響きを持っていた。


ジェネシス側のゴールに突き刺さる、温かな閃光。試合終了を告げるホイッスル。

この瞬間、お父様の"エイリア"は、雷門に敗れた。



「そんな、馬鹿な……!?」



お父様は瞳子姉さん達のいるフィールドへと下りて行った。



「お父様っ!?」



止めようにも、止められなかった。


お父様は酷く混乱している様子だった。


けれど、フィールドに立ち、その場に存在する彼等を見据えた途端、きっとお父様の中で何かが変わったのだろう。

いや、目が覚めたとでも言うべきかなのかな?




ホッとしたのもつかの間だった。




「ジェネシス計画そのものが間違っていたんだ。」

「っ!!!?」



ウルビダの肩が、大きく跳ねた。



「これほど愛し、尽くして来た私達をっ!!よりによって貴方が否定するなあぁ!!!!」

「!?」



私は思わず目を瞑ってしまった。





再び目を開けた時、視界に映ったのは苦しそうに腹を押さえたグランだった。









私はそれからの"話"を、ガラスに張り付くようにして聞いていた。






ジェネシスの皆が、涙を零した。


お父様ももう、かつてのお父様に戻っていた。









なのに、こいつときたらっ!!




「あの男もこれで終わりですね。」

「やめて、何するのっ!?」



研崎がコントロールボードに手を伸ばした。



何をするつもりなのかは知らないが、止めなければならないことは確かに思えた。



「っ、放せ!!!!」

「ああっ!!」



私を突飛ばした研崎は、ケースのかぶせられていた赤いボタンを押した。


頭が痛い、壁に強く打ち付けたせいだ。
視界もチカチカする。



「……やはり、貴女は必要ありませんね。」

「ぐぁっ…!?」



胸部の中心に鋭い痛みが走った。蹴られたのだと理解した瞬間には、私は髪を掴まれて引き上げられていた。



基地内に轟音が響き渡り、徐々に床が振動し始める。



「何を、したのっ…?」



引っ張られている髪が悲鳴を上げる。
けれど口に出したら負けだ。



「何、単に基地を爆破させるだけですよ。こんな場所に、もう用はありませんから。」

「なんてことをっ……」



痛みで声が上手く出せない。



「もうじき、ここは只の巨大な鉄屑となる。勿論、中にいる人間も。…どうです?命乞いをして、私に服従を誓うのであれば、貴女を助けてあげないこともありませんよ?」

「だれ、がっ…!!」

「そうですか。それは残念。」

「ぅ、」



研崎が私の髪を放した途端、私は床に崩れ落ちた。



「ああ、これは返していただきますね。元々、"このボール"は私の物だ。」

「ゃ、め…」



研崎は私の持っていた鞄から"ダーク・エンぺラーズ"の黒いボールを取出し、にやりと笑った。



「やがて施設内のシャッターも全て閉鎖される仕組みです。」

「……。」

「では。さようなら、エリオさん…。」



そう言って部屋を出る研崎を、力ない私は黙って見上げることしか出来なかった。



「……くっ、」



ダメージを負った体、揺れる床のせいで、上手く立ち上がれない。

フィールドを見下ろせば、そこにはもう誰もいなかった。



「よかっ、た…。」



置いていかれたという絶望感なんか少しも無く、ただ皆無事に脱出出来たのだという安心感の方が強かった。





私は痛む身体を無理に動かして立ち上がった。



「っ、た…」



でもそんなこと気にしてられない、時間が無いのだ。



徐々に数を減らす、外へ通じる道。



がむしゃらに通路を走るよりは、近くにある監視モニタールームに行って確認した方が確実だ。









*








「嘘…。」



画面越しに見た現実は、残酷だった。



ジリジリと不調を訴える画面。その全てに、私を拒む灰色の壁。







このまま死んじゃうのかな。





だってもう、出口なんか、無い。









耳にピシピシと音が響いた。



それはきっと、建物に亀裂が入る音。









崩壊する星の城

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