18
「期待していますよ。」
お父様の言葉に、ジェネシスである彼等は強い使命感に似た感情を抱いてフィールドへ向かった。
「ご健闘を。」
私も精一杯の敬意を払って一礼をした。
*
ガラス越し、眼下にて繰り広げられる雷門とエイリアの最終決戦。
私は研崎と共にお父様の傍に控え、その試合の行く末を見守っていた。
手中にはスクールバックにも似た黒い皮の鞄。
中にはいざという時のための黒いボールが入っている。昨日、あの風丸とかいう男の子から受け取った物だ。
一瞬たりとも気の抜けない、私にとっては非常に疲れる時間だった。
ふと、それまで雷門側のベンチにいた男の子が立ち上がったのが見えた。
「吹雪君……。」
試合に出るんだね…。
けれども、その足取りはまだ頼りなく、戦力というにはまだ乏しい状態であることが伝わってきた。
そうか、彼は、まだ……。
吹雪君のトラップミス、すると豪炎寺君が、吹雪君に向かってボールを蹴った。
「!!!?」
「お前には聞こえないのか!!」
何故か、ドキリとした。
それはきっと豪炎寺君の声が、心に直接訴えかける、とても力強く、魂の籠もったものであったからだろう。
フィールドを飛ぶボール、それが再び、吹雪君の元へ戻って来た時。
彼の"答え"は
見つかったようだった。
*
モノクロのボールが、光を纏っているかのように輝いて見えた。
雷門イレブンの繋ぐボールの軌道は、やがて……
「ジ・アース!!!!」
幾重もの声は、希望に満ちた響きを持っていた。
ジェネシス側のゴールに突き刺さる、温かな閃光。試合終了を告げるホイッスル。
この瞬間、お父様の"エイリア"は、雷門に敗れた。
「そんな、馬鹿な……!?」
お父様は瞳子姉さん達のいるフィールドへと下りて行った。
「お父様っ!?」
止めようにも、止められなかった。
お父様は酷く混乱している様子だった。
けれど、フィールドに立ち、その場に存在する彼等を見据えた途端、きっとお父様の中で何かが変わったのだろう。
いや、目が覚めたとでも言うべきかなのかな?
ホッとしたのもつかの間だった。
「ジェネシス計画そのものが間違っていたんだ。」
「っ!!!?」
ウルビダの肩が、大きく跳ねた。
「これほど愛し、尽くして来た私達をっ!!よりによって貴方が否定するなあぁ!!!!」
「!?」
私は思わず目を瞑ってしまった。
再び目を開けた時、視界に映ったのは苦しそうに腹を押さえたグランだった。
私はそれからの"話"を、ガラスに張り付くようにして聞いていた。
ジェネシスの皆が、涙を零した。
お父様ももう、かつてのお父様に戻っていた。
なのに、こいつときたらっ!!
「あの男もこれで終わりですね。」
「やめて、何するのっ!?」
研崎がコントロールボードに手を伸ばした。
何をするつもりなのかは知らないが、止めなければならないことは確かに思えた。
「っ、放せ!!!!」
「ああっ!!」
私を突飛ばした研崎は、ケースのかぶせられていた赤いボタンを押した。
頭が痛い、壁に強く打ち付けたせいだ。
視界もチカチカする。
「……やはり、貴女は必要ありませんね。」
「ぐぁっ…!?」
胸部の中心に鋭い痛みが走った。蹴られたのだと理解した瞬間には、私は髪を掴まれて引き上げられていた。
基地内に轟音が響き渡り、徐々に床が振動し始める。
「何を、したのっ…?」
引っ張られている髪が悲鳴を上げる。
けれど口に出したら負けだ。
「何、単に基地を爆破させるだけですよ。こんな場所に、もう用はありませんから。」
「なんてことをっ……」
痛みで声が上手く出せない。
「もうじき、ここは只の巨大な鉄屑となる。勿論、中にいる人間も。…どうです?命乞いをして、私に服従を誓うのであれば、貴女を助けてあげないこともありませんよ?」
「だれ、がっ…!!」
「そうですか。それは残念。」
「ぅ、」
研崎が私の髪を放した途端、私は床に崩れ落ちた。
「ああ、これは返していただきますね。元々、"このボール"は私の物だ。」
「ゃ、め…」
研崎は私の持っていた鞄から"ダーク・エンぺラーズ"の黒いボールを取出し、にやりと笑った。
「やがて施設内のシャッターも全て閉鎖される仕組みです。」
「……。」
「では。さようなら、エリオさん…。」
そう言って部屋を出る研崎を、力ない私は黙って見上げることしか出来なかった。
「……くっ、」
ダメージを負った体、揺れる床のせいで、上手く立ち上がれない。
フィールドを見下ろせば、そこにはもう誰もいなかった。
「よかっ、た…。」
置いていかれたという絶望感なんか少しも無く、ただ皆無事に脱出出来たのだという安心感の方が強かった。
私は痛む身体を無理に動かして立ち上がった。
「っ、た…」
でもそんなこと気にしてられない、時間が無いのだ。
徐々に数を減らす、外へ通じる道。
がむしゃらに通路を走るよりは、近くにある監視モニタールームに行って確認した方が確実だ。
*
「嘘…。」
画面越しに見た現実は、残酷だった。
ジリジリと不調を訴える画面。その全てに、私を拒む灰色の壁。
このまま死んじゃうのかな。
だってもう、出口なんか、無い。
耳にピシピシと音が響いた。
それはきっと、建物に亀裂が入る音。
思い交差したその場所で
崩壊する星の城
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