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*






あの後私はすぐに研崎の血色の悪い部下三人を引き連れ、銀色のアタッシュケースを持って、稲妻町へと向かった。

研崎は自身のチームについて、あまり詳しくは語らなかった。

白っぽいアスファルトを、夕日がオレンジに染める。




やがて目的の人物を捜し出し、私は彼に声をかけた。



「こんにちは、おじさん。」



隙を見て気絶させ、アタッシュケースからトップがエイリア石となったペンダントを首にかけた。

話によると、彼等は四十年前にフットボールフロンティアで活躍した、伝説の"イナズマイレブン"らしい。



はっきり言って、そんな風には見えなかった。

彼等はそこらの単なる一般人となんら変わり無いように見える。




気を失ったら薄気味悪い連れの部下にを使って車に乗せる。


こんなことをして、研崎は一体彼等をどうするつもりなんだろう。





一人、また一人と"回収"し、そして5人目へ向かおうとした時だった。






「お前がエリオだな。」



「……誰?」





私服を身にまとっているというのに、私を宇宙人ネームで呼んだ人物へと振り返れば、そこには1人の男の子がいた。



「お前はもう基地に戻って構わない。残りの石をこっちに渡して帰るといい。」



研崎の部下も、彼を拒む様子は見せない。しかもいつの間にか私の背後から彼の後ろに着く始末だ。



「……。」



私が黙ってエイリア石入りの小柄なアタッシュケースを投げ渡すと、濃い水色の髪をしたその少年は、替わりに私にワープ用の黒いサッカーボールを渡した。黒、というか、全体的に紫掛かった色をしている。



「ねえ、質問に答えてよ。貴方、エイリア学園の"生徒"じゃないでしょ?」



少なくとも、私は彼とは会ったことが無い。お日さま園の子でないことは確かだ。


彼は私を一瞥すると、何がおかしいのかクックッと笑って言った。



「"ダークエンペラーズ"。研崎に聞いてるだろ?」

「…へぇ。」



こんな細身の子が、ジェネシスを超える究極の存在だっていうの?



私は頭に疑問符を浮かべた。


その場から一歩退いて、黒いボールを宙に滑らせる。




「貴方、名前は?」



そう問えば、男の子はまた口元を歪ませて。



「風丸一郎太。」



ボールが地面付近で紅黒い光を放つ。




ああ、そういえば、私は彼に見覚えがある。




そう思い出した時には、私の目に映る景色は稲妻町の裏路地から星の使途付近の樹海へと変わっていた。



あの風丸と名乗った男の子。

彼を見たのは、北海道の白恋中。雷門とジェミニストームの試合。


"彼"と同じ、ポニーテールの髪。風のようにフィールドを駆けていた、"雷門"の選手。





「どういうこと…?」



そこで私は、研崎の言葉を思い出した。



「…憎しみ、か。」



私が最後にその感情を強く抱いたのは……。



「京都……。」



そうだ。あれは、吹雪君と初めて話した時だっけ。

吹雪君さえいなければ、ジェミニが負けることなんかなかったって、私は自分勝手に嘆いてた。







吹雪君は、今どうしてるんだろう。




「考えても仕方ないか。」





知らないうちに、夕日は落ちていた。


足下に転がる黒いボールは、薄らと姿を現し始めた月と相対の色をしていた。






*








「和葉!」

「風介?」

「勝手に何処へ行っていた!私がどれだけっ……和葉?」



風介の姿と声の"意味"を理解してすぐ、私は彼に抱きついた。



「よかっ、た……」



忘れてない、

風介は何も変わってない。


強張っていた体の力が緩んだ。






しかし、そんな安心もつかの間だった。






「和葉、聞いて。」



随分と苦しそうな声だった。



「明日、ここでジェネシスと雷門の試合がある。さっき父さんが言ってたんだ。」








私たちの運命が、明日決まる。





お父様のため、風介達はジェネシスの勝利を望むだろうか。





「明日…」




風介から離れて、拳を握りしめた。



「ジェネシス以外のチームは、施設端に待機用の部屋を設けたから、そこにいろとのことだ。」

「…そっか。」



その時、ふいに背後に恐怖を感じた。















「エリオさんは私と一緒に旦那様の傍についてもらいます。」

「研崎…。」



風介が顔を歪ませた。


私が振り向くと、そこにはやはり研崎がいた。



「なぜだ。」

「貴方方と違って、エリオさんにはまだ十分な利用価値がありますから。」

「なんだとっ…!?」

「風介、」



今にも殴りかかってしまいそうな風介を制して、私は小さく呟いた。










「…ごめんなさい。」



研崎を一人、お父様の近くには置けない。

取り返しがつかなくなってからでは遅いのだ。
そうなる前に、誰かが止めなくては。



「ごめん、風介。」



本当は離れたくなんかないんだよ?



でもやっぱり私は、貴方と一緒にはいられないみたいだから。








そんなこと、絶対に嫌だとは思うけど、


もしかしたら、

これが"最後"かもしれないから。























「"さようなら"、ガゼル様。」







行くな、と、その薄い唇が動いてた。











けれど彼は私を止めようとはしなかった。


…できなかったんだ。


私が自分で決めたことだから。



















……もし、この言葉が本当に"お別れ"になってしまったなら。








その時は、








どうか私を忘れて下さい。









*






「基山ヒロトの名前で、サッカーはしない。」



翌朝、

光を濁らせた彼は、心に強い稲妻の輝きを持つ"敵"にそう告げた。








私は……



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