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『和葉』







生まれた時から、私達は一緒だった。



顔の造りや肌の色、異なる点も多々あったけど、
髪のと瞳の色はおんなじで、

おそろいだね、って、嬉しくて笑ってた。








*








「おや、どうかしましたか?」



全て分かった上で、目の前の男はそう言った。



「っ、けほっ、」



駄目だ、うまく呼吸ができない。



「ああ、話を元にもどしますよ?本題はここからなんですから。」



本題?


これ以上何を……



「先程言っていた私の"最強のチーム"、実はもう存在してるんですよ。」

「!!!?」



こいつ、本当にっ!!



「ただ、彼等はまだ"未完成"なんです。そこで、」

「……。」

「貴女の協力が必要なんです。」

「そんなことっ!!」

「真実を思い出してもなお、貴女はまだあの男の味方をするんですか?」



研崎さんの問に、私は肯定も否定もできなかった。



「何も貴女自身に"戦え"と言うわけではないんです。ただ、ほんの少し手伝ってほしいだけなんですよ。」






だめ。

きっとこの人は、私をいいように利用しようとしてるだけ。



「私が世界の支配者となった暁には、貴女の地位も保証しましょう。勿論、レーゼ…彼の記憶の復元もして差し上げますよ?」

「え……。」






久しぶりに聞いた、その"存在を示す"名前。


もっとも、本名ではなかったが。






頭の奥では罠だと認識していながらも、なんて甘い誘いだろうと思った。





一瞬、心が揺らいだ。

けど……。






「……。」






のばしかけた私の手を抑えたのは、
あの儚くも懸命に輝く、翡翠の光。


幼い頃の記憶が、
私を慰めてくれたヒロトの笑顔が、
私の正常な感覚を戻してくれる。






そうだ、ヒロトはまだ"諦めてない"。

私達が諦めてしまえば、一体誰がお父様の目を覚まさせるというのだ。





「私は……お父様を信じてます。」





私達がお父様を信じなくてどうする。




あの人は、本当はとても優しい方。

それをよく知っているのは他でもない、私達。





「だから、貴方の計画の手伝いなんてしない!今すぐにでも、貴方の悪事をお父様にっ!!」

「おや、いいんですか?」

「何をっ…!!」



私が誘いを断ったというのに、研崎さん…いや、研崎は依然として優位な態度を崩さない。





「先程、貴女にカオスを知っているかと、聞きましたね?」

「…それが?」

「試合の結果は?」

「……知らない。」

「ククッ…そうですか。」




嫌な予感しかしない。


そしてその予感は的中する。



「試合は彼等が優勢でした。しかし、チーム"カオス"が雷門と試合をすることは、旦那様のシナリオには存在しない。あくまでも旦那様の画く終幕は、各国の首脳陣の前で"ジェネシス"こそ地上最強であると認識させることにある。」

「……。」



「勝手な行動をとって、何のお咎めもないなんてこと、あるんでしょうかねぇ?」

「まさかっ!!…」




一度は落ち着いた心音がまた速くなる。



激しい焦燥と不安が、胸を締め付ける。






















「旦那様は、"ジェネシスさえ"いればいいんですからね。」



「っ!!!!」






その一言が、鋭い剣となって私を貫いた。


力の抜けた足を無理矢理立たせ、扉に向かって走る。



「なんでっ!?」



早く、早く皆のところに行かなきゃいけないのに、大きく重い扉にはいつの間にか鍵がかかって開かない。



「やだ、開いてっ!!」



後ろから研崎が笑いながら近づいて来るのが分かる。

けど、そんなことどうでもいい。


私が怖くて仕方のないこと、恐怖を抱く対象、それは……






「開け!こんなとこいたくないっ!!」






今すぐにでも、貴方の隣に行きたい、貴方の手を握りたい。






「風介っ!!」




また、"あんな"思いをするの?





風介も、"彼"とおんなじように、
私を忘れてしまうの??










『エリオ、』








『お前たちは…誰だ?』






『髪、結ってあげるよ。』






『触るなっ!!』









また私は……。








『『和葉』』








「駄目っ……!!」




嫌だ、風介を失うなんて絶対に駄目!!

風介だけじゃない、晴矢、クララ、茂人、由紀、夏彦、皆!!


私達は、1人だって欠けちゃいけないのにっ!!!!




いくらお父様を信じるとはいえ、この恐怖を抑えることは出来ない。



「……。」



私は一つの決断を胸に、扉に背を向けた。


目の前にいる研崎は、やはり笑っていた。



「貴女の答え次第では、私が彼等の処分を改めるよう、旦那様に頼んで差し上げますよ?」




ああ、やっぱり。



この人、最初からこのつもりだったんだ…。















「……貴方に、従います。」





大切な人を失うに勝る辛さなんて、きっと無い。


だから、それより軽い痛みなら、私は幾らでも耐えてみせるから……。







Yes or

私に選ぶ権利なんて、存在しなかった。


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