16
『和葉』
生まれた時から、私達は一緒だった。
顔の造りや肌の色、異なる点も多々あったけど、
髪のと瞳の色はおんなじで、
おそろいだね、って、嬉しくて笑ってた。
*
「おや、どうかしましたか?」
全て分かった上で、目の前の男はそう言った。
「っ、けほっ、」
駄目だ、うまく呼吸ができない。
「ああ、話を元にもどしますよ?本題はここからなんですから。」
本題?
これ以上何を……
「先程言っていた私の"最強のチーム"、実はもう存在してるんですよ。」
「!!!?」
こいつ、本当にっ!!
「ただ、彼等はまだ"未完成"なんです。そこで、」
「……。」
「貴女の協力が必要なんです。」
「そんなことっ!!」
「真実を思い出してもなお、貴女はまだあの男の味方をするんですか?」
研崎さんの問に、私は肯定も否定もできなかった。
「何も貴女自身に"戦え"と言うわけではないんです。ただ、ほんの少し手伝ってほしいだけなんですよ。」
だめ。
きっとこの人は、私をいいように利用しようとしてるだけ。
「私が世界の支配者となった暁には、貴女の地位も保証しましょう。勿論、レーゼ…彼の記憶の復元もして差し上げますよ?」
「え……。」
久しぶりに聞いた、その"存在を示す"名前。
もっとも、本名ではなかったが。
頭の奥では罠だと認識していながらも、なんて甘い誘いだろうと思った。
一瞬、心が揺らいだ。
けど……。
「……。」
のばしかけた私の手を抑えたのは、
あの儚くも懸命に輝く、翡翠の光。
幼い頃の記憶が、
私を慰めてくれたヒロトの笑顔が、
私の正常な感覚を戻してくれる。
そうだ、ヒロトはまだ"諦めてない"。
私達が諦めてしまえば、一体誰がお父様の目を覚まさせるというのだ。
「私は……お父様を信じてます。」
私達がお父様を信じなくてどうする。
あの人は、本当はとても優しい方。
それをよく知っているのは他でもない、私達。
「だから、貴方の計画の手伝いなんてしない!今すぐにでも、貴方の悪事をお父様にっ!!」
「おや、いいんですか?」
「何をっ…!!」
私が誘いを断ったというのに、研崎さん…いや、研崎は依然として優位な態度を崩さない。
「先程、貴女にカオスを知っているかと、聞きましたね?」
「…それが?」
「試合の結果は?」
「……知らない。」
「ククッ…そうですか。」
嫌な予感しかしない。
そしてその予感は的中する。
「試合は彼等が優勢でした。しかし、チーム"カオス"が雷門と試合をすることは、旦那様のシナリオには存在しない。あくまでも旦那様の画く終幕は、各国の首脳陣の前で"ジェネシス"こそ地上最強であると認識させることにある。」
「……。」
「勝手な行動をとって、何のお咎めもないなんてこと、あるんでしょうかねぇ?」
「まさかっ!!…」
一度は落ち着いた心音がまた速くなる。
激しい焦燥と不安が、胸を締め付ける。
「旦那様は、"ジェネシスさえ"いればいいんですからね。」
「っ!!!!」
その一言が、鋭い剣となって私を貫いた。
力の抜けた足を無理矢理立たせ、扉に向かって走る。
「なんでっ!?」
早く、早く皆のところに行かなきゃいけないのに、大きく重い扉にはいつの間にか鍵がかかって開かない。
「やだ、開いてっ!!」
後ろから研崎が笑いながら近づいて来るのが分かる。
けど、そんなことどうでもいい。
私が怖くて仕方のないこと、恐怖を抱く対象、それは……
「開け!こんなとこいたくないっ!!」
今すぐにでも、貴方の隣に行きたい、貴方の手を握りたい。
「風介っ!!」
また、"あんな"思いをするの?
風介も、"彼"とおんなじように、
私を忘れてしまうの??
『エリオ、』
『お前たちは…誰だ?』
『髪、結ってあげるよ。』
『触るなっ!!』
また私は……。
『『和葉』』
「駄目っ……!!」
嫌だ、風介を失うなんて絶対に駄目!!
風介だけじゃない、晴矢、クララ、茂人、由紀、夏彦、皆!!
私達は、1人だって欠けちゃいけないのにっ!!!!
いくらお父様を信じるとはいえ、この恐怖を抑えることは出来ない。
「……。」
私は一つの決断を胸に、扉に背を向けた。
目の前にいる研崎は、やはり笑っていた。
「貴女の答え次第では、私が彼等の処分を改めるよう、旦那様に頼んで差し上げますよ?」
ああ、やっぱり。
この人、最初からこのつもりだったんだ…。
「……貴方に、従います。」
大切な人を失うに勝る辛さなんて、きっと無い。
だから、それより軽い痛みなら、私は幾らでも耐えてみせるから……。
Yes or はい。
私に選ぶ権利なんて、存在しなかった。
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