長かったような短かったような、ついに本日が補習最終日です。
ようやく明日から、放課後勉強しないで真っ直ぐ部活に行けるんだ!とか、これでもう雨宮さんと交流を持つことはないんだろうな……なんて複雑な気持ちになりながら教室に入った。

すると、雨宮さんは既に席についていて、彼の周りに何人か他の男子生徒が集っていた。

…うわぁ、席着きにくいな。

しかしいつまで突っ立ってるわけにもいかないので、私は意を決して自分の席へと近付いて行った。

鞄を机に置く。男子達の視線が気になるがまあ仕方ない。


「名前!」


例のごとく、雨宮さんが私の名前を呼ぶ。
ちらりと視線を合わせてやれば、雨宮さんはその空色の瞳を輝かせ、心底嬉しそうな表情をしていた。


「ねえ名前、僕達さ、今後雷門と練習試合することになったんだ!!」

「雷門?」

「うん!知ってる!?」

「まあ…一応。」


名前くらいなら知っている。雷門といえば去年サッカーの大会でウチに勝って、最終的に優勝した学校のことだよね?…確か今年も雷門が優勝して、大会2連覇決めてたような。


「テレビにも映ってたね、特集組まれて凄かった。」

「そうそう!」


なるほど、皆さんその話題で盛り上がっていらしたのか。


「お前等ぁ、そろそろ時間なるぞー!!」


先生が来て、雨宮さんの周りにいた男の子達は散って行った。教室から出て行った人は、わざわざ雨宮さんと話すためにここに来ていたのか、流石人気者。
そうして未だ若干騒つきの残る教室で、雨宮さんは体を私の方へと向き直した。


「でさ、名前も応援に来てよ!」

「は?」


なんでやねん。
どない展開やねん。


「だって新雲と雷門の試合だよ!?」

「ああうん、ウチの学校もサッカー部強いらしいからね…。」

「"らしい"じゃないよ名前。なんなら僕も雑誌のインタビューとかも受けたことあるし、十年に一人の逸材、天才ストライカーとか呼ばれてるんだから!!」

「自分で言う?雨宮さんそれ自分で言っちゃう?」

「だって名前、本当に興味なさげなんだもん。三割り増しぐらいにして話さないと。」

「増したの?」

「いや、増してないかも。全部本当のことだし。」


そう言って雨宮さんはニカッといい笑顔を浮かべたが、私はそれに対し、曖昧な笑顔を浮かべて会話を流した。

教卓にいる先生が動き出したので、会話を切り上げるのにはちょうど良かった。

十年に一人の逸材、ね。流石雨宮さん、私なんかじゃ比べ物にもならないや。

意識を失うこともせず、ただぼーっとしていただけで、一時間という補習時間はあっさり終わってしまった。
やっぱり補習なんて受けるだけ無駄じゃないか、だって当の本人が内容を吸収する気ゼロなんですから。

…誰か私のやる気スイッチを押してほしい。


「再来週の土曜ね。」

「え?」


何がですか雨宮さん…。


「だから、試合。」

「ああ、うん…。えっと、頑張ってください。」

「……。」


なんでこんな、ぽかーんなんて顔をしてるんだこの人は。選手に頑張れって言うのは普通なんじゃないだろうか。


「じゃあね雨宮さん、補習お疲れ様。
さようなら。」


そう、さようなら。もうきっと関わることは無いでしょう。素敵な夢と目の保養をどうもありがとうございました!!




*




数日後。


「どーにもここ最近、太陽さんはご機嫌斜めのご様子で。」


私は閉じられた傘に手をかけながら呟いた。
勿論、太陽さんとはつまりおてんとさまのことであるわけで。


「晴れてくれないと、外で絵が書けないんだよなぁ。」


バンッと、勢いよく傘が開く。
私は無駄に大きなその傘を、子供のようにくるくると回しながら登校を開始した。




降水確率80パーセント。




雨は一日中止むことはなく、結局この日の深夜まで降り続くことに……なるのだろう。

が、今の時刻はまだ夜の九時過ぎだ。

夕飯も入浴もとっくに済まし、いつものようにゆったりとテレビを視ていた時のことだった。


「?」


携帯にメール。差出人の欄には名前ではなくアドレスがあり、どうやら非登録の相手かららしい。
表示された本文内容はこうだ。


"初メール!無許可だけど人づてにアドレス聞いちゃった!!僕のも登録しといてくれると嬉しいです。"


「……いや、誰だよ。」


なるほど分かったぞ。これはあれだ、誰かのイタズラだな。え、やだ悪質な迷惑メール!?と見せかけての、実は私でしたぁ、からかってごめ☆アドレス変えたんで再登録よろー♪…パターンだな。
だってほら、アドレスの最後が.comじゃなくて正式な携帯会社のやつだし。

まったくもう懲りないんだからぁん、しかも一人称僕って!!うふふ、イタいわぁ…。

脳内に浮かんだ友人の顔を鼻で笑ってやりながら、私は返信メールを作成した。

"…誰やねん(´・∀・`)"


はい送信。まあ仮に本当に知らない相手からだったとしても、こっちのアドレス変えればいいだけだもんね。

……お、来た来た。
タイトル、re:ごめん!!。
そして本文は、"ごめん、ちょっと焦って名乗り忘れちゃった;改めて、雨宮太陽です。雨宮さんじゃなくて、ちゃんと太陽って登録しといてね?"



…………ダウト。



「いやいやいや、だってそんな、うっそだぁ…。」


なんで?
仮に本当だとして誰に聞いたの!?てかこれ本当に雨宮さんじゃなかったら超悪質だよ!!純粋な乙女の心を弄びやがって!!あ、ここ笑うとこ!!純粋な乙女って誰だアホってツッコミを下さい!!


「……。」


友人のイタズラだと信じていながら、もしかしたらと期待を持ってしまっている自分がいる。それが少し悔しかった。


"……証拠は?"


「……。」








馬鹿だ、私は大馬鹿者だ…このブス、人間不信ッ、根暗ぁ!!!!


数分後、相手様に再び返信を頂いたのだが、私はそうやって自分を罵っていた。



"…これでいい?"


そう送られて来たメールには、一枚の写真画像が添付されていた。


「……!?」


正真正銘の雨宮さんの自撮り写真、しかもちゃんと今撮りましたというアピールなのか、3分ほど前の時刻を指したデジタル時計を持っている。

さらに、だ。


「ぱッ……っ。」


パジャマ。

パジャマだ、雨宮さんまさかのパジャマっ子だった、なにこの貴重な御写真。


"疑ってごめん(^人^;)
……雨宮さんパジャマなんだね。
なんか可愛い((笑。+゚
誰にアドレス聞いたのかは知らないけど、とりあえず登録しとくねノシ"


わけの分からないテンションに駆られて、うっかり可愛いだなんて送ってしまったが大丈夫だろうか。

って、そうだ早速登録しないと。


登録名は、雨宮さん。
フリガナ、は……
……アメミヤタイヨウ。


「……。」


雨宮さんは何も悪くない。
けれども彼はとても残酷だ。

もしも仮に、彼女さんと私を天秤に掛けたなら、彼は迷わず前者を選ぶ。私なんか、比べる価値も無い。


…なのに、なのになのになのに。

貴方を好きでいることを、
やめられる自信が無いよ…。







それでも、きちんと彼を諦めてはいるのだ。






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