「白竜ってさぁ、」


部活に向かう途中、僕は前々から気になっていたことを本人に聞いてみることにした。


「名前のこと好きなの?」

「……。」


あれ、おかしいな。返事がない。

不思議に思ってそれまで前に向けていた視線を白竜へと向ければ、彼は何やら考え事をしているようだった。まあ、なんとなく予想はつくんだけど。


「名前のお弁当おいしかったなぁ。」


わざとらしく放たれたその言葉に、白竜の肩がぴくりと跳ねた。ほんと、分かりやすいなあ。


「…しゅ、シュウ、その、お前は…。」


うわ、眉間の皺すご…少しこの顔面白いかも。

言い掛けたはいいけど、白竜はその先をなかなか言おうとしない。仕方ないから僕から言ってあげることにした。


「僕んとこ朝忙しくて、お弁当作るも暇なくてさ。別に買えばいい話なんだけど、見兼ねた名前が作って来てくれるんだ。世話焼きって言うか、選手兼マネージャー業もこなしてたし、ゴッドエデンでついた癖が抜けきってないんだろうね。」


だから別に特別な仲とかそんなんじゃないよ?
遠回しにそう伝えてやるば、白竜はホッとしたような表情を見せた。うん、やっぱり分かりやすくて面白い。




*




新入部員としてサッカー部に紹介され、練習に参加したはいいが、どうにも気になることがある。


昼の件は先程シュウ本人により解決されたのだが、また新たに集中力を欠く疑問が生じてしまった。

ペアでパス練習とのことだったので、俺は青銅を相手にボールを蹴っていた。

しかしよそ見をして、返って来たボールをうっかりこぼしてしまったのだ。仮にもかつて究極を名乗っていた俺がこんな初歩的なミスをするとは!!と、思わず下唇を噛んだ。


「どうした白竜、体調でも悪いのか?」


珍しくミスをした俺に対し、青銅は心配の眼を向けてきた。


「いや、なんでもない。」


転がって行ってしまったボールを広いに行き、また定位置に戻る。その間も俺は視線の先を動かし、この場にいるであろう人物を探していた。

選手としてはないだろうから、するとしたらマネージャー…。

しかし数人いる女子の中にも見当たらない。


「……。」

「白竜?」


青銅は足を進め、俺の顔を覗き込んだ。
…俺は思い切って、胸の内に燻っていた疑問を口にすることにした。


「…青銅、名前はどうした?」

「え、名前?」


すると青銅はああ、と言った後、信じられないことを口にした。


「名前はテニス部だぞ?」

「…は?」

「いや、だから、硬式テニス。」

「なんだと!?」


そう言えば、シュウも確かサッカーを観る側に回った人間も少なくないと言っていたが、まさか名前もその一人だったとは…俺はてっきり、名前はサッカー部のマネージャーをやっているとばかりに思っていたというのに。

つまり以前のように、名前が俺達のタオルやドリンクを用意してくれるということは無いわけか。


くっ、共にゼロメンバーとして究極を目指していながら!!見損なったぞ名前!!


「あー、白竜?」

「…なんだ青銅。」

「お前が何考えてんのかはよーっく分かる。がしかし今は部活中だ、集中しろ、な?」


青銅の言うことは最もだ。

俺はこの憤りとひとまず心の奥底に仕舞い、練習に身を入れることにした。




*




「……。」


部活終了後。

俺は一人携帯の新規メール作成画面を相手に葛藤していた。


サッカーを離れテニスを始めたことを直に追及するため、名前自身と下校を合わせたいのだが…。

なんと言えばいいのか分からん。


まさか一緒に帰ろうなどと言えるわけもなく、かといって恥を隠してての上から目線では断られてしまう可能性が非常に高い。


「名前にメール?」

「ぬぉッ!?」

「図星だね。僕が素直じゃない君の変わりに打ってあげるよ。」

「な、シュウ!!待っ、おい!!」

「カイー、白竜抑えといて。」

「はいよ、オッケー。」

「はぁ!?」


後ろから顔を覗かせたシュウにいきなり携帯を奪われ、それを奪還せんとすればカイに羽交い締めにされて身動きを封じられてしまった。

く、こいつ細身な身体に見えてなんて力だ!!

首を回して睨んでやれば、カイは軽く「伊達にルーク宿してないからな。」なんて笑っていた。


「よし!」


それまで忙しなく動いていたシュウの指が止まったと同時、カイがオレを放した。シュウめ、一見機械音痴そうに見えて何て素早さだ!!


「な、なんて送ったんだ…?」

「君が言いたかったことをそのまま。」


にこにこと携帯を返却するシュウは、やけに楽しそうだった。
こうなってしまってはもう嫌な予感しかしないが、俺は送信ボックスを開いた。




一人では寂しいので一緒に帰らないか(´・ω・`)?




「……。」

「ほら、別に変なこと書いてないでしょ?」

わざとらしく悪気は無かったといった顔をしたシュウは、そう言って首を傾げた。
俺が抗議の言葉を探していると、手の中の携帯が激しく震動した。



いいよ。じゃあ校門で待ってる('')ノシ



「ね?結果オーライ。」

「……。」


その画面を確認すると、シュウはさっさとカイを連れて行ってしまった。
俺も半端にしていた着替えを終え、一応、年上の先輩とやらに挨拶をして部室を出た。




校門へ行けば、メールにあった遠りに名前が立っていた。
彼女は俺が来たのを確認すると、それまで弄っていた携帯を仕舞った。


行くぞと言って肩を軽く叩けば、名前は「え?」と不機嫌そうに目を細めた。


「女子に対して待たせてごめんとは言わないの?」

「ゴッドエデンで散々練習に遅刻してメンバーに迷惑をかけたのは誰だ。」

「…過ぎたことを。」


苦々しく笑った名前は、おそらくその後教官に叱られたことを思い出しているのだろう。
とまあ、そんなことはどうでもいいのだ。


「サッカーを、辞めたそうだな。」

「え?ああ…辞めたっていうか、まあうん。」


名前は大して悪怯れた様子も無く言った。


「何故だ。」


自分の声に、微かに怒気が混じっているのが自覚できた。


「何故って、だって格好良くない?テニス。」

「分からんな、理解しかねる。」

「一途だなあ。あのね――」


競技そのものを否定するわけじゃない。しかしかつて同じチームとして共に戦っていた名前が、サッカー以外のスポーツをこんなにも楽しそうに話しているのを見るのは、あまりいい気持ちではなかった。

寧ろ、不快に思う。


「あ、でもサッカーが嫌いになったわけじゃないから。」

「……。」

「白竜ー?」

「煩い、俺は今機嫌が悪いんだ。」

「はぁ?何それ…。」


では何故サッカーから離れて行ったんだ。

名前の背負うラケットが、酷く憎らしく思えた。




*




「どうだった?」

「シュウ…どうとだったとは、何がだ?」


翌朝、教室に入って席に着いた途端、シュウが顔を覗いて来た。


「昨日名前と一緒に帰ったでしょ?」


だから何だと言うんだ…。

俺が眉をひそめて首を傾げると、シュウは背もたれに背を預けてため息をついた。
それからちらりと俺の方を見て…。


「昨日は流されちゃったんだけど……白竜、名前のこと好きでしょ。」

「?、それは」

「勿論異性として、だよ。」

「……。」


ぶわっ、と。身体中に嫌な温度が広がり、じわりと背中に汗が滲むのを感じた。


「な、何を馬鹿な…俺は別に!!」

「そう、じゃあ僕が名前を貰っても何も問題ないよね。」

「なっ!?」


にっこり。

憎たらしい位の笑顔を浮かべ、シュウはとんでもないことを言ってのけた。


「前はチームも違うしなぁって遠慮してたんだけど、もう関係ないもんね。」

「駄目だ!!」


そう叫んだと同時、教室内に静寂が降りた。空気の変化を感じ取ったシュウは、クスクスと笑いだした。


「冗談だよ。」

「!?…っ、くだらない嘘をつくな!!」


まったく趣味の悪い…。

室内の緊張が解れ、再びそれぞれがそれぞれの会話に戻る中。
シュウは鞄からごそごそと何かが入った袋を取り出し、それをどんッと俺の机に置いたのだった。


「…なんだこれは。」

「漫画だよ、少女漫画。」


少女漫画?見たところ軽く10冊以上はあるのだが、一体これがどうしたと言うんだ。


「妹のなんだけどさ、君に貸してあげるよ。」

「何!?シュウ、お前妹がいたのか?」

「ツッコむとこそこじゃないでしょ…。」




*




夜。


勉強もそこそこに、俺はシュウに渡された少女漫画とやらを手に取るか否か迷っていた。


くっ、何故男である俺が少女漫画などという女々しい物を読まなくてはならないのだ!!


そんなことを思いながら、袋の中の一番左端にあった本を取り出した。



『白竜はそういう類いの知識疎そうっていうか、このままだと君が可哀想だから勉強するといいよ。』



…否定はしない、が、なんだこのやり場の無い憤りは。

どうにもあの見下し哀れむような目が頭から離れない。



「ふ、はは…今に見ていろ。」


シュウか名前か、得に誰に向けて言ったわけでもないが、俺はそう呟くと強く奥歯を噛んで本の表紙を開いた。




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