昼休みのチャイムが鳴った。

やはり授業はつまらないし、一応向上心はあるのだが基本を覚えていなければどうにもついていけなくやる気が削がれる。
かつて究極のシードであった俺の成績が悪いとあっては恥なので、家に帰ってから復習してみようとは思う。


「白竜、お昼。」


授業から開いたままの教科書を凝視していると、シュウが横から肩をつついてきた。


「一緒に食べようよ?」


シュウはそう言うと、俺の返事も聞かずに席を立った。
特に誰とも約束をしていなかったので、俺は自分の弁当を持ってシュウの後を付いて行った。

昼食をとろうと誘ったくせに、シュウは両手に何も持っていない。
購買にでも寄るのかと思ったが、シュウが足を止めたのは2つ隣のクラスだった。


「カイー。」


開けっ放しの教室の扉からシュウは慣れた様子でカイを呼んでいた。
シュウの視線の先には当然、ゴッドエデンでも親しかったあのカイだった。
あちらもシュウに気付いたらしく、今行くという意思表示なのかひらひらと手を振っていた。


「よ、白竜久しぶりぃ。」

「まあな。」


相変わらずへらへらしているというかなんというか…。


「お、白竜弁当持参か。なんか菓子パン食ってるイメージあったんだけどな。」


そう言うカイの手にも、小さな鞄がぶら下がっていた。このままカイの教室で食べるのかと思いきや、屋上に行くのだという。


…にしても、どうにもさっきから周囲の視線を感じる。


「俺の顔に何か付いているのか?」


移動中、恥と後悔を覚悟で二人に問えば、何故か一瞬互いを見合って間を置いた後可笑しそうに噴き出していた。


「な、何が可笑しいんだ!」

「いやぁ、白竜ってナルシストそうに見えて実は天然だなってさぁ?」

「…似たようなことを名前にも言われたな。」

「まあ、キザッたいモテ男より、究極馬鹿の方が君らしくていいよ。扱いやすいしね。」

「…シュウ、それはどういう意味だ。」


まさかとは思うが、馬鹿にされているのではないだろうか。


「そのままの君がいいってことだよ。褒めてるんだ。」

「む…そうなのか?」


なら良い。

少し機嫌を良くして隣を歩く俺を見て、カイは頭の後ろで手を組んで笑った。




*




階段を上がって屋上の扉を開けると、フェンスに囲まれた広い空間が広がっていた。
俺はフェンスの外の外をから町を見下ろし、その緑の少なさに窮屈さを感じた。


「まだ来てないな、先に食う?」


カイはシュウに訊ねながらコンクリートで出来た床に腰を降ろした。

そして俺が振り返ったと同時、再び屋上の扉が開いた。


「名前ー!」


扉から姿を現したのは、弁当を手にした名前と青銅だった。
シュウが嬉しそうに名前に手を振ると、名前も歩きながら小さく手を振っていた。

よく見れば、名前の手には弁当の包みが二つあった。


「おー白竜じゃん、久しぶり。」


青銅が俺の顔を見て笑った。
なんというか、こうも知った顔が揃っていては新鮮味に欠けるというか。
いや、決して嬉しくないわけではないのだが…。


「ああ。青銅、まさかお前も同じ学校だったとはな。」

「お前って…あのな白竜、実は俺さ?」

「年上なのだろう、知っている。」


青銅の靴の色が名前と同じだったことは、入って来た瞬間に確認した。そうでなければ、名前と一緒に来た理由が分からない。


「知っててその態度かよ。まあらしいっちゃらしいけど…。」

「ねえ白竜、一回先輩って呼んでみなよ?」


シュウがそう言うので俺は青銅に向かって再び口を開いた。


「青銅先輩。」


ご希望通りに敬称を付けてやったのに、青銅は何故か口元を引きつらせて腕をさすっていた。


「うわ、なんか違和感有り過ぎて気持ち悪い、鳥肌立ってきた。」

「失敬だな!人がせっかく…」

「はいはぁいそこまで!俺お腹空いてるからそこらへんにしといてよ。」


カイが俺達の会話を中断したので、これまで通りに青銅も青銅のままでいくことにした。


「あ、はいシュウ、お弁当。」

「ありがとう、名前!」


…なるほど、シュウが弁当を持っていなかったのは、名前に自分の分を用意するよう頼んでいたからか。

というか待て、こいつらはつまりそういう関係なのか!?


「どうしたの白竜、羨ましそうな顔しちゃって?」

「な、そ、そんなことはない!!」


にやにやと核心をついてくるシュウに、俺は拳を握り締めた。

とまあ、一部気に掛かる出来事はあったが、学生として充実した昼食だった。




*




中学生生活に慣れようと午後の授業をこなす最中も、やはりどうにも昼に抱いた疑問が俺を悶々とさせていた。

シュウと名前が、その…こ、恋仲なのか、そうでないのか。
そう、正に白か黒かということが。


「白竜、僕部活行くけど。来るよね?」

「っ、あ、ああ!!」


いかん、いつの間にかSHRとやらが終わっていたようだ。


俺は急いで支度を済ますと、エナメルと鞄を肩にかけたシュウの隣を付いて行った。





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