今まで認めたくなくて、その感情から目を逸らし続けていた。

あの場所で選ばれたシードとして常に究極の存在となることを目指していれば、それはさほど気にするものでもなかった。
しかし究極の存在になるという確固たる支柱を失ってしまった俺は、この気持ちと真っ向から向き合わなければならなくなってしまった。



正直に言おう、俺は名前が好き…らしい。


名前は特に顔が整っているというわけでもないし、最初はこんな奴が好きなわけがないと自身を疑った。
しかし俺もまた究極の存在でありながら、所詮年頃の健全男子というものであるわけであって。孤島での共同生活という環境下において、身近にいる女子が気にならないわけがなかった…のだと思う。


誰もいなくなったキッチン。食べ終えた朝食の食器を片付けながら、俺はそうやってこの馬鹿げた感情の整理をつけていた。



*




「あ、白竜おはよー。」


玄関の扉を開ければ、門の外にいた名前はゴッドエデンとあまり変わらぬ様子で挨拶をしてきた。


「おはよう…いつからいたんだ?」

「んー、10分くらい前。不審者と間違われたらどうしようかと思っちゃった。」


戸締まりを確認して隣に立てば、名前はイヤホンを外して歩きだした…そうだ、そういえば。


「アドレス。」

「え?」

「教えろ、その方が何かと便利だ。」

「相変わらず上から目線だよね…はい。」


小さく笑って、名前は桜色の携帯を取り出し指を動かした。俺も同じように赤外線の準備をして、互いの連絡先を交換した。


それからこっちに帰って来てからの話など登校中の会話は絶えず、寧ろ足りないくらいだった。できれば一緒のクラスになれたらいいとは、柄ではないと思い口には出せなかった。


「結構ゴッドエデンから来た人いるから、今転校生ラッシュって感じなんだよね。でも元々いた人達もそれを嫌悪してるわけじゃないから安心していいよ。というか、女子は寧ろ喜んでるかもね。」

「何故だ?」

「それはだってほら、やっぱりイケメンが増えるとテンション上がるもんでしょ。まあ、白竜には分からないか。」


校舎はここ数年の間に新調されたばかりらしく、外観もそれなりに立派だった。


「出席番号分かる?」

「ああ。」

「そ。じゃあ靴履き替えておいで。」


お前は俺の親か。そう眉をひそめれば、だって白竜サッカー以外のことてんで出来そうにないからと返された。
名前の下駄箱は少し離れた所らしく、スペースはクラスごとに別れているため名前と同じクラスではないことを知った。


「あの、もしかして転校生?」


靴を履き替えてローファーを靴箱に入れようとすると、知らない女子数人に話し掛けられた。肯定の言葉を返せば、彼女達はやっぱりと言って騒いでいた。


「あたし達同じクラスなんだよ、よろしくね!!」

「ああ…よ、よろしく。」


島から出たからには、社会性を持たなければならない。煩いと言ってあしらうのは簡単だが、それが出来ないというのは面倒だと思った。
朝から厄介なのに絡まれたな。


「職員室案内したげるよ、一緒行こう?」

「いや、俺は…」

「白竜。」


振り向くと、名前が鞄を持ち直して俺を待っていた。


「っ、今行く!」


女子生徒達も状況を理解したのか、名前の元へ急ぐ俺を引き留めようとはしなかった。


「ひゅー、さっすが白竜君。」


冷やかすように放たれた言葉に、俺はあまりいい気持ちはしなかった。


「あんた顔が良いから花嫁候補もより取り見取りだねぇ羨ましい。まあ、大人しくクールぶってればの話だけど。」

「うるさい。ほら、行くぞ。」

「はいよ…ってそっちじゃないよ!!」

「ぐっ…。」


引き返すのはなんともプライドが傷付いたが、名前は機嫌のいいような微笑で俺の半歩前を歩きだした。

少しするとそれらしき部屋の前に着き、名前はその扉を横に引いた。


「失礼します。」


担任への挨拶を済ませた俺は、朝のSHRまで応接室で待機ということになった。応接室は職員室のすぐ隣にあったので、名前の案内は必要なかった。


「じゃあ私も教室行くから、またね。」

「ああ…待て名前。」


俺は一つの疑問を解消するために、ひらひらと手を振って階段を一段上った名前の腕を掴んだ。


「何故階段を上がる?」


一年の教室は全て一階にある、教室に向かうのであれば階段を上がる必要は無いはずだ。
俺が首をかしげると名前は呆れたように眉をひそめ、無言で自身の足元を指した。


「?」


その先を目で追ってみれば、そこには当然上履きを履いた名前の足があった。
流石元シードというべきか、ソックスを纏ったそれは一般女子は愚かそこらのスポーツ女子よりも遥かに筋肉質だ。


「おい、今失礼なこと考えてたろ。」

「馬鹿な、太いなと関心していたんだ。」

「駄目だこの子デリカシーの欠片も無え!!」

「デリカシー?俺は単にお前を褒め…ん?」


視線を再び名前の上履きへ戻した時だった。俺の靴のラインが青いのに比べ、名前のそれは赤かったのだ。

つまりは…。


「名前、お前…。」

「ん。」

「年下だったのか。」

「先輩だよ!!階段上がるっつってんだろ!!大体お前一年だろうがぁ!!!!」


…何故大声を出す。



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