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明日から学校、か。

ゴッドエデンが閉鎖して、家に帰って来てから数日が経っていた。賑やかな世界と明るい太陽の下で、俺は約一年ぶりに"日常"を取り戻しつつあった。
分刻みのスケジュールに縛られることない穏やかな時間、久しぶり見たテレビから聞こえるバラエティーの騒がしい声。


「…こうも自由すぎては、逆に落ち着かないものだな。」


誰もいない室内で一人呟いた。
常に上を目指し日々鍛え続けられていた身体は、これでは鈍ってしまうとばかりに肉体的疲労を欲していた。汗を流すまで思いきりサッカーがしたいが、一人きりでは満足に競うことすらできない。とりあえず適当にジョギングでもしてみるかと、俺はゴッドエデンでも使っていたトレーニングシューズを履いて家を出た。

明日から通う学校には、正直これといった期待や不安など抱いてはいなかった。
ただ、ある程度サッカーが強い学校であってほしいとは思っていた。一年後、大会で勝ち進むことができなければ、剣城…雷門と再び相見ことは叶わないないだろう。



…いくら久しいといっても、道に迷うなどという事はなかった。たった一年やそこら町を離れただけでは、これといった変化も見られない。強いて言うのなら、曲がり角にあった煙草屋の看板が消え、幾つか自販機が増えた程度のものだろう。


軽快な足取りで進んでいると、一人の女子中学生の後ろ姿が目に入った。
確かあの制服は、明日から俺が通う学校のものだ。

そこで、俺はふと妙な擬似感を覚えた。
なぜならその女の髪と立ち姿が、名前に酷似していたからだ。


「……。」


いや、まさか。そんなはずはない。
この近辺に住んでいるのなら、これまで一度も顔を合わせないでいれるはずがない。否定しながらも、胸の内にはほんと少しの期待を抱いている自分がいた。
近づく背中に、胸の鼓動が速くなった。


「……白竜?」


俺が名前に声をかけるより先に、名前が振り返ってそう問うた。俺は、咄嗟のことに何て返せばいいのか分からなかった。
そういえばこいつは人の気配に敏感だったことなと、混乱する頭で考えていた。


「ぁ、本物だ…久しぶり、って程でもない、かな?」

「ああ…。」


ゴッドエデンにいた時はほぼ毎日顔を合わせていたことに加え、本土の街中という場所、それに互いに見慣れぬ服装をしているため、相手が歳を重ねたようにも感じられた。
突然の再会に向こうも戸惑っているようで、あれだけ遠慮の無い仲だったというのに、なんだか会話はぎこちなかった。


「…お前の家は、この近くなのか?」

「まあ、近いっちゃ近い、のかな。」

「……。」

「……。」


会話が続かない。あっちもそれを気まずく思ったのか、名前は斜に視線を逸らして話題を探しているようだった。


「…えっと、白竜学校は?」

「明日から通うことになっている。」

「そっか。…どこの学校?」


お前と同じ学校だ。
そう言えば、名前は目を輝かせた。


「本当!?」

「…嘘をついてどうする。」


てっきり、怪訝な顔をされるものかと思っていた。同じ学校に知った顔が増えて嬉しいのかと、適当に解釈をすることにした。聞けば青銅などといった、元チームメイトも何人かいるらしい。
改めて考えてみれば、それもそのはずだ。
俺の編入するそこは、フィフスセクターの息が強くかかった学校だ。だからこそ、ゴッドエデンから帰った俺達を受け入れる手配もスムーズに進み、筆記試験を受けずとも編入が許されたのだ。
管理サッカーの下部というのが気に食わないが、雷門が起こした革命の風は間もなくそのゴールへとたどり着くことだろう。
テレビ放映されていた新雲学園の試合に、俺は"本当のサッカー"が一層恋しくなった。

そうか、名前を含めて、あいつ等が一緒なら一人力を持て余して退屈と感じることはなさそうだ。


「学校までの道は分かる?」

「多分な。」

「多分って…お前究極の存在なんじゃなかったのかよ。曖昧なら、朝迎えに行ってあげようか?」


名前は冗談のつもりで言ったのだろうが、俺は真面目に首を縦に振った。
「え、マジ?」と苦笑いをされたが、俺の両親は共働きで朝は早いし、道案内をしてくれるのであれば正直助かる。


「その…そういえば私白竜の家知らないんだった…そうだ、今から白竜ん家行っていい?」


…以前俺は名前に天然なのかと聞かれたことがあるが、こいつも相当だと思う。いや、ここで変な想像をてしまっした俺が愚かなのか?


とりあえず、転校初日から遅刻なんてベタな展開は避けることができそうだ。




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