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「エンシャントダーク、か…。」
プロジェクトにおいて、アンリミテッドシャイニングと対を成すマイナスのチーム、というのが教官に聞いた説明。
「キャプテンだなんて相当だなぁ。」
あの男の子…入っていきなりだなんて。このユニフォームに袖を通すまで、血の滲むような日々を重ねてきた私には、少々納得がいかなかった。
やっぱり下積み時代あっての昇進だと思うのよね…なんて思いながら施設内にあるテラススペースで風に当たっていると、誰かに肩を叩かれた。
いきなりのことに驚いて振り向くと、そこには今しがた脳内にいた彼がいた。
「やあ。」
そう発すると、彼は可愛らしい顔をにこりとさせた。
「…どうも。」
うわぁ独り言聞かれてたらどうしよ!!ごめんなさい勝手に話題に上げてしまって!!
にしても…こいつ、気配が全く無かった。よくこの私に気付かれずに接近できたものだ。私は彼に感心すると同時、少し気味悪くも感じた。
「何か用でも?」
「用ってわけじゃないけど、ここ、女の子もいるんだなって思ってさ。」
あれ、一応男装してるから、私が女ってことは一部の人しか知らないはずなんだけどな。
「…男子サッカーが全てってわけじゃないからね。まあ、確かに男子に比べれば女子はマイナーかもしれないけど。」
彼に警戒心を解くことは出来ない。もしかしたらこっち側の探りに来たのかもしれないし。
私は彼の着ている漆黒のユニフォームに目を細めた。
けれど、彼は私が自分を敵視していることなど、対して気にしていない様子だった。
いや、単に気付いてないだけなのかもしれないが…。
「ねえ、他にも女の子っているの?」
「うーん…数える程度には…。」
ちなみに、ゴッドエデンには美人な女性教官もいる。
ああいうかっこいい大人に、正直憧れる。
「…どうしてそんなこと聞くの?まさか君も女の子??」
「まさか。僕はれっきとした男だよ、確かめてみる?」
「それはナチュラルなセクハラと受け取っていいの?」
ちょっと警戒心を強めて言えば、変な触角髪のその男の子はごめんごめんなんて言って笑っていた。
「ただ君と話してみたかっただけだよ。前、僕のこと見てたよね?白竜、だっけ、彼と一緒にさ。」
「ああ…うん。」
「ね、名前教えてよ。」
「えー…苗字名前。」
私が嫌々ながらも名前を教えると、彼は口元に緩い弧を描いて自分の名を名乗った。
「名前か…僕の名前はシュウ、よろしくね名前。」
「はあ…。」
なんか、呑気な奴だなあ。
ここは神の楽園と言う名の地獄ですよ?やっぱり強いと余裕出てくるもんなのかな。
私がシュウの顔をじっと見つめていると、彼は大きな黒い瞳をぱちくりさせた。
「どうし、、って、えぇ!?」
私がいきなりシュウの首を両手で包み込むようにして触れたものだから、流石の彼も驚いたようだった。触れた首筋からは、ドクンドクンと血流の鼓動が伝わってきた。
「……。」
ちゃんと生きてる。脈を測った後は、シュウの顔をぺたぺたと触ってみた。
「あの、名前?」
「ん?」
「何しひぇぅの?」
聞き取れない、ちゃんと喋ってよ。そう言えば、シュウは名前がほっぺたを弄るからだよと文句をたれた。まあ当然か。
「ごめんごめん。ちょっと確かめたくて。」
「?」
「生きてるなって。」
「え、」
「私ね、ちょっとばかし霊感持ってんの。最初シュウ見た時なんか変な感じしたんだよねー。あ、でも別に悪い感じじゃなかったから安心していいと思うよ。」
「…ふぅん。」
シュウはあまりよく分からないと言った風に首をかしげた。
「君、面白いこと言うね。」
「信じてないの?」
「ふふ、わかんない。」
「…シュウの方こそわけ分かんない。」
すぐに部屋に戻る予定だったのに、それからもシュウと話していたせいで結構長引いてしまった。