「任務失敗の責任は全て俺にあります。」



ヒビキ提督含め、私達を見下ろす上官達が口を開く前に、私は挑むような視線でそう言い放った。



「チームオーガのメンバーは皆、俺の指示通りに動きました。試合の作戦を考えたのも俺です。許しを請おうとは思いませんが、罰を受けるのは隊長であった俺だけにしていただきたい。」

「ナマエ!?」

「何言ってんだお前!!」

「真実だ。敗因は俺の実力不足と、采配が誤っていただけのこと。現にエスカバのシュートは入ったし、ザゴメルのサポートをきちんとしていればシュートは止められた。」



静かだが強い圧力を持つ声。

そう…罰は全て、私が引き受ける。



「…いいだろう、ナマエ以外の隊員は席を外せ。」

「提督!!」

「いいんだエスカバ、提督に逆らうな。」

「けどよっ!?」



エスカバを制し、サンダユウに皆を連れて行くように言った。

一人残った私は、再び口を開く。



「しかるべき処置はお受けします。しかし、どうか私の話を聞いていただきたい。任務は失敗したものの、私は…私達は、過去に飛んで、大切なことを学びました。過去にあって、現在に無い物…私達が忘れてしまった光を!!」



過去で感じたことを。
貴方が言いたかったことを。
私が代弁者として語りましょう。

この国の未来が、真に輝くものとなるように。





「――お伝えしたかったことは以上です。今後の"革命"に対する上官方のお考えが改められることを願います。」

「……ナマエ・スリード。」

「はっ。」



ヒビキ提督は少し悩んだ素振りの後、私の名を呼んだ。



「今回の件については、どうやら評議会にて話し合う必要があるようだ。お前の処分は後日言い渡そう。」

「ありがとうございます。」



今後に対する不安など一切無しに、達成感にも似た感情を抱いて部屋を後にした。



「ナマエ!」



部屋を出ると、サンダユウをはじめとするチームオーガのメンバーが私に駆け寄った。



「どうだったの?」



ミストレが心配そうに私を見た。



「大丈夫だ。今のところは、な。」

「今のところってどういうことだよ!お前なんであんなこと言ったんだ!!どういうつもりだナマエ!!」

「落ち着けエスカバ!」



興奮状態のエスカバを、ドラッヘが制した。



「心配はいらない。オペレーション・サンダーブレイクは元々政府の承認を得て行った計画ではないため、言えば非合法による犯罪行為。それが公になれば俺達の両親も黙ってはいないだろうし、それほど重い罰はくだらないはずだ。」



私が落ち着いた声でそう言っても、皆の顔から不安が消えることは無かった。





何故そんな顔をするのか、分からなかった。


自分たちの安全は完全に保証されたのに、どうして…。



「…喜んではくれないのか?」

「はあ!?」



ミストレはそう叫ぶと同時、私の胸ぐらを掴んだ。



「君よくそんなことが言えるね!!オレ達がこんなことで喜ぶはずないだろ!?」



すぐ近くにあるミストレの紫の瞳には、燃え盛る憤怒の炎が見えた。



「何故?」



純粋な疑問を口にすれば、ミストレは一瞬目を見開いた後、より強い怒りの感情に顔を歪めて拳を振り上げた。

殴られるのは、まあ仕方ないと思った。
彼だって人間なのだから、手を上げる程怒ることがあるのは当然だ。


そう思っていたのに、ミストレの拳が私に届くことはなかった。



「……?」



振り上げられたミストレの手首を、サンダユウが掴んでいたのだ。



「…放せよサンダユウ。」

「駄目だ。」

「っ、何でだよ!」



ミストレが私を放すのと同時、サンダユウの手も放れた。



「ナマエは何も分かってない!いつも人形みたいな顔して、オレ達のことなんか眼中に無いみたいな目してたくせに!いざ任務に失敗したら全部自分が悪いんです、だからチームの皆は助けてください?笑わせるな!!」



ミストレに続いて、エスカバも私を睨んで口を開いた。



「お前、俺達がどんな気持ちでお前の後付いてったのか分かってねえだろ。」

「……。」



肯定の意を込めて沈黙を返せば、エスカバは皮肉を込めて私を笑った。



「ハッ……だよな。あんたは俺達のこと、何も分かっちゃいねーよ。」



エスカバの言葉に、私は反論することが出来なかった。



「……確かにそうだな。」



分かっちゃいないどころか、最初から分かろうともしなかった。


ザゴメルの肩に乗っているゲボーとブボーは、この状況に酷く困惑しているようで、メンバーの顔を見ると、心が痛んだ。



「…すまない。」

「っ、そんな言葉が聞きたいんじゃない!」



珍しく、ジニスキーが声を荒げた。





…言いたいことがあったら言う、か。

でもね円堂守、なんて言ったらいいか分からないんだよ…。




やがて、私は一つの結論にたどり着く。



「…よく分からないんだ。」



無理に笑顔を作って、精一杯の言葉を絞りだす。



「皆が今まで俺についてきてくれたことは、感謝している。…けれど、もう"終わり"だ。」



どういうことだよと、誰かが言った。



…"私"は元々、彼等と干渉することの無い存在だ。
これ以上私が関わってしまったら、彼等の辿るはずだった未来を歪めてしまう可能性だってある。



私はもう、自由なのでしょう?


なら、皆から離れさせて。

私は、見守るだけで、十分だから…。






皆の反応を見ることなく、私は早足でその場を後にした。



終わりってどういうことだよ!!ミストレがそう叫んだような気がした。


けれど、誰も私の後を追って来ようとはしなかった。






*







隔離部屋における、1週間の謹慎処分。

ナマエに与えられた罰はそれだけだった。



俺達はミッション失敗翌日から、また"元通り"の学校生活を送ることになった。
まるで時間軸を戻したかのように。



「戻し過ぎだっての…。」



これではあのディベート以前…ナマエと出会う前の日常だ。
決してそれらがつまらなかったわけではない。しかしナマエの欠落は、俺達に説明しようのない虚無感を与えていた。



「それだけ、俺達にとってのアイツの存在ってデカかったっつーことだよな。」

「……。」



目の前に座るミストレは、俺の言葉に応えることもなく、グラスに入ったオレンジジュースをじっと見つめていた。



「…終わりって、どういうことだろうな。」

「…さあね。」



少なくとも、あの言葉がチーム・オーガの解散を指していたのでないことは、チームの誰もが感じていた。



「俺、ナマエに酷えこと言っちまったな。」

「……オレも。」



あの時は頭が熱くなって、ろくに考えもせず激高に身を任せてしまった。

夜になってから、酷く後悔した。



「分かってなかったのは、オレ達の方だよ…。」



ミストレは、珍しく語尾を下げて言った。



「確かに、な。」



ナマエが俺に対し、ある程度の壁を作っていることは知っていた。日が経つにつれ、それは徐々に薄くなっていくものだと感じていた。だが、それは単なる俺の期待でしかなかったようだ。



「今日何日目?」

「2日目。」

「あと何日?」

「5日だ。お前こんな簡単な計算もできねぇのかよ。」

「……。」



長い。


たった1週間という期間が、数年にも等しい時間のように感じられる。



「わけわかんない。」



ミストレがうわごとのように呟いた。



「会いたいよ、ナマエ…。」



腕をクッション代わりに机に伏せたミストレを見て、俺はなんだか自分が情けなく思えてきた。



「…俺も。」








分かるよ。



なあ、お前、


今どこで泣いてんの?







迷走少女、
所詮レプリカ。






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