"自分"に気付いたのは、12の頃だった。


王牙学園の入学も決定し、私が通う国立の小学校の卒業式を数日後に控えたある日のこと。

酷い頭痛に襲われたと思えば、私の脳に流れ込んだのは前世の記憶だった。



「……嘘、」



授業中にも関わらず、私は動揺を隠せなかった。



「スリードさん、どうかしたの?」

「、いえ、何でもありません。」



教師が私の異変に気付いた。咄嗟に何でもないと返したけど、保健室で休ませてもらったほうが良かったかもしれない。
私はその後授業の内容が一切頭に入らなかった。



…可笑しな話だ。
転生前の私が聞いたら鼻で笑うだろう。

休み時間にトイレに行って、鏡を見た。
紅い瞳に白銀の髪、生まれた頃から何一つ変わらないその姿。今まで何度も目にしてきたというのに。



「私は……。」






*



「ナマエ、準備はもういい?」

「ぁ、はい。」



母さんが私に声をかける。

今日は王牙の入学式で、運良く休暇を貰えた母さんが送ってくれるらしい。
入試試験で一番の点数をとった私は、新入生代表として挨拶をすることになっている。

明日からは寮に住むことになっているので、荷物は既に送っておいた。
馴れ親しんだ"我が家"での暮らしに、ほんの少しさようなら、だ。



「…母さん、」



これまで生きてきて感じたことのないような不安に駆られ、私は母さんに抱き付いた。
普段はあまり甘える素振りなど見せない私の行動に、母さんは一瞬驚いたみたいだったけど、すぐに優しく笑って頭を撫でてくれた。



「あら、どうしたの?」

「…ううん、何でもない。」

「そう…ねえ、制服、本当にそれで良かったの?」



母さんが言っているのは、王牙学園指定の軍服…私の着ている、"男子用"の制服のことだ。



「うん。これでいい。」



実力主義の王牙学園で、性別の関係無しに、軍人として、国を率いる人間として成長したいというのが両親に話した表向きの理由。

でも実際は違う。本当は皆と同じ女子生徒のスカートが良かったし、別に他人と自分がどう比べられようがどうでも良かった。



「頑張ってね、ナマエ。」



誰に言われたわけでもない。



けれど、私は……。





「はい。」



今日から"彼"として生きていく。






鬼のお面を被った日





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