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「…ねーエスカバ君。」
「なんだよ?」
相手が相手なだけに、死刑宣告にも似た一言を放った"奴"は、用事終了とでも言うかのようにあの場を去ってしまった。
残った私とエスカバ君は、二人で教室への退路を辿っていた。
「ミストレーネ・カルス…あの人一体何考えてんだろ。」
「さあな、お前もめんどくせぇことになっちまったな。」
「気のせい?エスカバ君の顔に"御愁傷様"って書いてるように見えるよ?」
エスカバ君に2回、軽く頭をたたかれる。あ、気のせいじゃなかったのね。だめでしょ軍人が心を表情に出しちゃ…。
「にしても、エスカバ君が居てくれてよかったよ。あのままじゃ私今頃はボロ雑巾と化してたよー。」
遠い目で思い出す。あの会話終了後、すぐにミストレーネへと駆け寄って来た女の子達のことを…。
怖い怖い、集団リンチマジ怖い。
「バトロワ方式の戦闘実習で最終ラウンドまで残ってた奴が何言ってんだよ。」
「あれは私、ザゴメル君にぴったり隠れてたからであって…。」
あ、そうだ。いっそのことザゴメル君に偽彼氏を演じてもらうとか?いやだめだ、いつもお世話になっているザゴメル君に迷惑はかけられない。
ゲボブボ兄弟は…嗚呼神様、酷いわ、私にどちらか1人を選べというのっ!?
「……エスカバ君…いや、それはそれでダメだろ。」
「何が?」
「いやなんでも。」
"よろしくねフラン"て…。
私名乗る際にわざわざファミリーネーム2回言ったじゃん、
ファミリーネームで呼んでよぉ…。
*
昼休み、フランはいつも一緒にいる女子と一緒に弁当を食いにどっか行った。
俺は同じクラスの奴等と食堂へ向かおうとしたのだが、
「ミストレ?」
「ああ、エスカバ。」
廊下に出た瞬間、ミストレと出会った。
「彼女は?」
「は?」
「フラン。いないの?」
「さっき出てった。」
「……へぇ。」
ミストレの顔が歪んだ。
俺は連れを先に食堂へ向かわせ、ミストレと少し話すことにした。
「なあ、何であんなこと言ったんだよ?」
「付き合ってってこと?」
「以外にあるかよ。」
質問の内容を理解すると、ミストレは大して興味も無さそうな態度で髪を弄りだした。
「別に、ちょっと悔しかっただけだよ。まさか本気であの子のこと好きとか、そーゆーのじゃないから。誤解はしないでね?」
「お前なあ…」
「二週間でフランをオレに夢中にさせてみせる。別れたくないって泣き叫ぶ姿とか、想像するだけでゾクゾクするね。」
ったくこのドSは……。
「…自信満々だな。」
「当然!まあ見ててよ、童貞君。」
「どっ!?」
俺は笑顔でじゃあねと言って引き返す奴の背中を蹴り飛ばしたくなったが、おそらく軽く避けられてしまうだろうと予測し思い留まった。
みんなみんな我慢してる
マジ頼むからちょっとだけ殴らせろ。
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