*






現在地、王牙学園校内、
エントランスホール。



「そういえばさ、もうすぐバレンタインデーだねえ。」



私は自販機で買ったアイスココアを手に言った。



「そういえば、そうだな。」



ザゴメル君は思い出したように返事を返した。


バレンタインと言えば、女の子にとっては結構な重大イベントだ。士官学校である王牙学園に通っている私達だって、例外じゃない。
ちなみに私は今まで本命チョコとやらを渡した…というか、作ったことが無い。



今年も友チョコのみを大量に作る予定。

…あ、あと妹とおとん。



「だが、まだ15日も先のことだぞ?」

「私は早めに計画立てとかないと前日に焦る羽目になるタイプなんだよ。あ、今年はザゴメル君にもお友達チョコあげるねー。」

「本当か?」

「うんうん♪」




ザゴメル君が少し嬉しそうにしていたので、作るこちらにも気合いが入るというものだ。



「ところで、フランは好きな奴いるのか?」

「いないよ、今のところ。…あ、ザゴメル君ひょっとして期待しちゃってるぅ??」

「してねえよ。」



素っ気ない対応ですなぁ…。そういうところも(友達として)大好きだけど、私的には少し位頬を赤らめてくれた方が可愛げがあるというもので…。いや、しかしそんなザゴメル君は私の知るザゴメル君ではない。



「でもね、彼氏とか、そーゆーのには憧れてる。」



理想論と言う名の単なる妄想を頭に思い浮かべると、自然と顔がにやけた。



「例えばね?やっぱり私だって、美形に迫られてみたりとかしたいわけなのよね?」

「ほう…なんか意外だな。」

「失礼しちゃうよ、ザゴメル君。私も一応、今をときめく十代の女の子なんだから。」



迫られたり…とか……まあその他にもいっぱいあるんだけど、あまり言い過ぎるとザゴメル君にマゾだと思われる可能性があるので、それ以上は脳内で叫ぶだけにした。




その後、ザゴメル君は用があるとかなんとかで先に行ってしまったので、私は一人で壁に背を着けてココアをすすった。



「そういえば…」



美形といえば、この間胸をお借りした男の子。


あれもかなりのイケメンさんだったなあ…あの時は少し邪険に扱ってしまって悪かった。しかし仕方ない、色欲より食欲だ、花より団子と言うでしょう。笑顔が煌めいてたし、きっと性格も柔らかい人に違いないな。ちょっと失敗した。



「…おいしい。」



アイスココアなので、ココア自体はするすると喉を通っていったのだが、口の中には心地よい味わいがじんわりと広がった。


私の目の前を、明らかにてめー等絶対ぇ付き合ってんだろな男女の生徒が通って行った。



「……ふんッ、羨ましくなんかないもん。爆発してしまえ。」



とは言いつつ、私は背中に壁の冷たさを感じながら目を閉じた。そうして脳内にダイブすれば、優しい理想の彼氏達が笑顔で私を出迎えた。

はあ…ココアうめぇ。
この甘いにおいも大好きだ。しかし私は、鼻腔をくすぐる甘い香りが、ココア単体のものでないことに気付いた。これは…シャンプー、かな?けどこの香り、私のと違う……。不思議に思って目を開ければ、そこにはまた不思議な光景が飛び込んだ。



「……はぃ??」



目の前には、先日危ういところを助けていただいたあの三つ編み男子。

そして顔の両横には彼の腕が。



……これはいわゆる壁に追い詰められているという状況だろうな。



「……。」



私は思わず眉をひそめた。

どうやら私の妄想はついに脳からはみ出し、幻覚と化してしまったらしい。
やっべ私末期だわこれ、こんな自分は変態ちっくで嫌だよ。

私はココアを持っていない方の手で幻影の腕をどかそうとしたのだが…。



「…あら?」



おかしい、ヤバイ、この幻影……具現化しとるがな。
しかも力強くて全然動かない。



「ねえ、」



しゃべった!?

まさか、マジでモノホンかっ!!






「君さぁ……なんなの?」

「はいぃ??……」



あの、思考回路がぐちゃぐちゃです、ごめんなさい。



「なんなのって……ズバリ貴方こそ"なんなの?"なんですけど……??」



そう言ったら、この超至近距離で睨まれた。

まあ体勢が体勢なだけにそれは仕方ないんですが…。



「ご、ごめんなさい…。」

「……。」



ひぃ、美形の睨みは迫力あるよ……怖いよー、ザゴメルくーん!!


私が目を見開いた状態で固まっていると、三つ編みの美形さんは何を考えているのか、私の耳元に唇を近づけた。



「名前、教えてよ。」

「、ミョウジ…フラン・ミョウジ。」

「へぇ…。」



ちょ、いい加減に離れて下さい、耳が…なんかもぞもぞするんで。



「フラン!!ミストレ、テメー何やってんだよ!!」

「煩いよエスカバ、名前聞いてただけだよ。」



美人さん改めイケチャラ(イケメンのチャラ男)がエスカバ君の声に反応して体を離した。



「エ、エスカバ君、この人とお知り合いで…?」



古い機械人形のように首を回して問えば、エスカバ君よりも先にイケチャラさんが口を開いた。



「ミストレーネ・カルス。」

「え?」

「オレの名前。まさかホントに知らないなんてね。」

「み、ミストレーネ…。」




え、まさかの?







"妄想"だからこそ

いいのであって、さぁ…。
実際に体験するとなるとちょっと……。


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