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「あーやだやだ。」
ゲボー君に確保してもらったいちごみるくメロンパンと一枚のプリントを手に、私は職員室へと向かっていた。
時間がもったいないし、なにより早く食べたかったので、袋を開いて食べながら歩いた。せっかくだから食堂でゆっくりと食べたかった。
なんだよ、保護者の集まりの出欠席確認なんて、わざわざプリントにすることないじゃない。
先生、いくら提出してないのが私だけだからといって、わざわざお昼休みに放送で呼び出さなくったっていいじゃない。
いちごみるくメロンパンうまうま。糖分摂取糖分摂取…。
あ、向こうから歩いて来るのはエスカバ君ではないか。
「や!よんぃおみぇへほぉえひゅカバ君!」
「食ってから喋れ、食ってから!」
一応、中から出ないように口元を手で押さえていたのだが、やはり注意されてしまった。どうにも聞き取りづらかったらしい。
「4位おめでとうエスカバ君!」
「素直に褒めてんのか馬鹿にしてんのか分かんねえんだけど?」
「…ザゴメル君万歳。」
「コノヤロウ」
「はぐぁっ!?」
エスカバ君にいちごみるくメロンパンを奪われた!
いちごみるくメロンパンにエスカバ君の1口分、つまりは私の3口分のダメージ!!
「アウチ!しかも中の苺クリームのところごっそりもってかれた、だと!!」
帰って来たいちごみるくメロンパンを見て、私の精神に更に210のダメージ!!
「…あれ、っていうかエスカバ君甘いもの平気なの?」
「ん、まあ見ての通りだな。」
エスカバ君は口の周りについたクリームをペロリと掬って答えた。
「男の子って、基本的に甘いもの嫌いなイメージあった。」
「確かに、甘過ぎるもんはちょっとな。けどなんつーか、パンは別物。」
「ふうん…。」
エスカバ君の基準がよく分からん。
でもこのパンが甘さ控えめで優しい味だってことはよく分かる。
「そういやさ、」
「?」
エスカバ君が思い出したように口を開いた。
「フランお前さ、ミストレのこと知ってっか?」
ミストレ…うちのクラスの人じゃないよね?
「もしかして、ミストレーネ・カルス?何においてもバダップさんに次いで2番って噂の??」
「そうだけどよ…お前それ本人の前で言ったら殺されるからな。」
「うんわかった。でも私、そのミストレさんとやらに会ったことないんだ。」
「え、マジかよ?」
「ほら、私って他のクラスに滅多に出入りしないから。」
それもそうだなと、エスカバ君は納得していた。
なんせこの王牙学園、生徒数がめっちゃ多いのだ。それだけいるんだから、なんとか順位を3桁でキープし続けている私を褒めてほしいくらいなのだ。
「まあ、会ったこともない人にこんな感情を抱くのも失礼に値するんだけど…」
「?」
「私、約30分ほど前にミストレーネ・カルスさんのこと嫌いになりました。」
「は、何でだよ?」
「実はぁ、幼なじみの女友達が、ミストレーネさんの親衛隊?とやらに入りたいだなんだの言ってきて…仲の良い私より、見込みの無い男をとられちゃって、私寂しいんで・す・よ☆」
だからさっき、私はザゴメル君と一緒に掲示板を見に行ったのだ。
まあ彼女とはこれからも親友としてよろしくやっていくつもりだ。今までより少し一緒にいる時間が短くなるだけだ。べ、別にアンタ以外にも女友達ぐらいいるんだからっ!!…というのは負け惜しみだろうか。
「親衛隊……エスカバ君も欲しい?」
「なんでだよ!?」
「いや、エスカバ君も充分カッコいいから、ラブアタックの10や20、ちょろいと思うんだけどなぁ…。」
「…お前それ本気で言ってんのか?」
「一応。あ、でもエスカバ君はどちらかというと男子にモッテモテだからなぁ。」
わざとらしくニヤニヤとしながら言うと、エスカバ君にでこをこづかれた。
「ふぉっ!?…ごめんごめん、まあ人に好かれるのはいいことだから素直に喜んで喜んで!!」
「お前が変に解釈して言うからだよ!!」
「変な誤解なんてしてないから大丈夫だよぉ…んで、何で話題にミストレさんの名前が挙がったんでしたっけ?」
話を冒頭に戻すと、エスカバ君は「あぁ、」と思い出したようで、表情をケロリと変えた。
「なんかさ、女探してんだと。」
「彼女が行方不明にでもなったの?」
私が首を傾げると、エスカバ君は違ぇよと言って頭をかいた。
「あー…お前知らねーんだっけな。ミストレの奴、自意識過剰ってか、ナルシ…?んでさ、助けた女が落ちなかっただのなんだの…」
エスカバ君がどうにも説明に困っているようだったので、私は助け船を出してあげることにした。
「つまり簡単に言うと、自分に失礼な態度をとった女子生徒を探してるとでも?」
「まあ大体そんな感じだな。」
勝手な解釈だったが、なんとなくは合ってるらしい。
「ミストレさんがどんな人かは知らないけど、いくらイケメンでも、ナルシは天然美人には勝てないでしょー。神様はちゃんと見てるよ?最後に笑うのは性格美人なんだから!!」
「そーじゃねーとお前報われねーしな。」
「黙れ!!」
馬鹿にしたように笑うエスカバ君の腹に一発お見舞いしてやりたいところだが、プリントとパンで両手が塞がっているため拳が握れない。
ふっ、バメルめ、命拾いしたな!!
「時間も惜しいから職員室行って来る!」
「行ってら。」
エスカバ君はぽんと私の頭に手を置くと、数メートル先にいた数人の男子生徒が彼を迎えた。
急がないとお昼休みが終わってしまう、まだ数学の課題だって終わってないのにっ!!
私はエスカバ君によって体積の減ってしまったパンをかじりながら職員室へダッシュした。
糖分摂取とアドレナリン
…あれ、ひょっとして間接ちゅぅ?
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