「……何それ。」


朝。昨晩のこともあって親父に話し掛けるのははばかられたものの、声をかけずにはいられなかった。


「何ってお前、小鳥さんだろうが。」


頭にちょこんと雀を乗っけた彼は、手元の携帯を弄りながら答えた。
机の上にドライバーやら工具が散らかっているので、何か不備でもおこしたのだろうか。


「…どうしたの?拾ったの?」

「あー…うん、庭で。」

「…へー。」


野生の雀があそこまで人になつくものだろうか。それに保護したと言う割りには、随分と元気そうに見えるけど…。


「まあいいや…ねー朝ご飯はー!?」


当番であるはずの妹の姿が見えなかったので適当に叫ぶと、「出来てるから自分で盛って!!」と洗面所の方から返事が帰って来た。

自分で盛って、って。
どうせサラダくらいしか作ってないんでしょうに…。




キッチンのテーブルを見てみると、案の定緑色でいっぱいになったサラダボウルと、開封されていない食パンの袋しか置かれていなかった。


「はぁ…せめて焼こうよ。」


私は寝起きの怠い身体でトースターのスイッチを入れ、パンの袋を開封した。


「…あ。」



もう…弁当用の米炊いてないじゃん。


パンをトースターにセットして焼きながら、名称のよくわからない米を入れている機械のボタンを押した。
途端必要なだけの米が波のように落とされ、それを全自動の炊飯器に入れる。米磨ぎから何まで全部やってくれるというもんだから、実にありがたい。

多分10分もあれば炊き上がるんじゃないだろうか、時代は進化したものだ。




*




時計を見れば、そろそろミストレが迎えに来る時間だった。

弁当よし、身支度よし、忘れ物無し!


「行って来まーす!」

「おー…。」

「いってらっしゃーい。」




玄関の扉を開ければ、丁度ミストレも着いたところだったらしく、「分かってるじゃないか。」と褒められた。


「まあ何日も続けば大体分かるよ、待たせちゃうのも悪いし。」

「へー、感心感心……!?」


私が門に手をかけた途端、ミストレの顔が急に険しくなった。

それから口をほんの少しだけ開けて、唇を動かさずに私に話し掛けた。


「フラン、あの鳥……。」

「鳥?」


唇を動かさないのは、相手に口唇を読まれないようにするためだ。
急にそんなことするもんだから、一体何事かと思って視線の先を追うと。


「ああ、雀。多分、さっきお父さんが手当てしてた子だと思うよ?」

「お父さんって、君の?」


ミストレの表情から険しさが消えた。


「うん。昨日帰って来たの。」

「ふーん……小鳥の手当て、ね。」


小さくそう呟いてから、ミストレは表情を一転、雀に向かってにっこりと微笑んだ。
うん、まさに営業スマイル120%。


「…何してるの?」

「別に。そろそろ行こうか。」

「??」


いい歳こいたオヤジが小鳥の手当てしてるのを想像して気持ち悪くでもなったのだろうか。
……失礼な。


「フラン、君さあ。」

「?」

「仮に誰かに命狙われたら、簡単に死ぬね。」

「はあ!?…平日の朝から何言ってるの?」

「んー、なんでもないよ。」


ミストレは小さく笑うと、「まあ万が一君が死にそうになったら、オレが守ってあげるよ。」なんて言っていた。


「フン、そんなの余計なお世話。私は将来最強かつ究極の存在になる予定だから、死にそうにもならないしピンチにもならない!!」

「フフ、あっそ。」


そんな予定微塵も無いけど、とりあえず意地を張っておくことにする。




*




「野郎…一発で気付きやがったな。」


大切な我が娘共を学校へと送り出した後、俺は携帯に向かって舌打ちをした。


開け放たれた窓から、雀が一羽入って来て俺の肩に留まる。

雀…というか、実はこいつは最新型の高性能カメラってやつだ。しかも軍の開発部が作ってるもんだから当然物騒な代物、銃弾内臓遠隔操作型。


フラン本人は気付かなかったが、現段階でフランの彼氏っつーポジションにいる女顔の野郎は、こっちがちょっと殺気を飛ばしてやっただけで感付きやがった。

目を逸らさず口も動かさず、こっそりベルト裏のナイフにまで手伸ばしちゃって。
しかもフランの親父と分かった途端あの笑顔かよ、相当な優秀っ子だな。


「やっぱ顔がいいと、女関係のトラブルが絶えないのかねー?……俺みたいに?」


なんつって。

……ああ、今フラン(ツッコミ)いねぇんだっけな。

「にしてもあの小僧…。」






Eye

ありゃあ平気で人を殺せる目だったな。



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