「…なんか長く感じるなあ。」
「?」
水曜日、彼女(仮)十日目のお昼時。
いつも通り一緒にお弁当を食べている時、ミストレが箸を止めて呟いた。
「何が?」
「…君と一緒にいる時間。」
おいおいおい、ちょっと待ってくれミストレさん。
それはあれですか、いい加減私といるのは飽きたということでしょうか?
つまりはさっさと二週間経過しちまえと?
「フラン?」
「…どうせ私は華がありませんよ。」
「…え、今更?」
グサッ!
今のキタ、自分でも分かってはいたが結構キタよこれ。
「ごちそうさま。」
「…はい。」
そうこうしてる間にミストレはお弁当を食べ終わり、私は今日も二人分の弁当箱を持って自分の教室へ帰って行くのであった。
ふと、そういえばさっき冒頭で、"いつも通り一緒に"と言ってしまったことを思い出した。いつも通り、か。まだ知り合って一週間ちょっとなのにな。
最初に比べたら、私は随分とミストレーネ・カルスに慣れてきた。というか、苦手よりはむしろちょっとしたお友達感覚だ。
嫌いでは、ない。
*
「お前最近割とここにいるよな。」
「あー…。なんか知らない間に癖付いちゃったのかな?」
フランと付き合って十日目の放課後。オレはまた、あの廊下からホールを見下ろしていた。
「聞いてよエスカバ…。」
「ん?」
寮に帰る途中であろうエスカバに声をかけられたので、オレは今考えていたことでも話すことにした。
「フランがさあ。」
「フランが?」
「…普通なんだ。」
「は?」
オレの言葉に、エスカバは首を傾げた。
「普通って、またあれか?フランが照れてくれないだの可愛い反応見せてくれないだの…。」
「違うよ。…なんかさ、どうでもよくなってきたんだ。」
フランを惚れさせるだとか、散々可愛いがってあげて捨てるとか。
「見た目も反応も全然可愛いくないし、仕草に心臓も高鳴らない。"いい意味"で、どうでもいい。」
寝台を共にしても性的興奮は起きないし、彼女の魅力を挙げろと言われれば言葉に詰まってしまう。でも…。
でもフランは。
「一緒にいても、変に気を遣わなくて済むんだ。勿論、オレの傲慢な態度を受け入れてくれた女の子なら何人だっていた。けど、フランは何か違うんだ。」
フランの隣にいると、妙な感覚だ。ひょっとしたらあれは属に言う安らぎというものに近いのかもしれないが、まだはっきりと断定はできない。
「なんか、飾る必要無いんだって思えるんだよね…。」
まだお互いに知り合ってから十日しか経ってないのに、オレは少々フランに気を許しすぎている気がする。
「最初の頃はさ、フランと二人きりの昼食なんて、はっきり言ってつまらなかった。親衛隊の女の子に囲まれて賑やかに食べるお弁当の方が、よっぽど楽しかった。…はずなんだけど、今日、随分と前からこうしていたんじゃないかって錯覚したんだ。」
いつの間にか、彼女を日常の一部に取り込もうとしている自分がいた。
「でもさぁ…。」
あと4日で終わりなんだよね。口に出せば、嫌でもその事実を突き付けられた。
オレは、戻らなくてはならない。あの、華やかな日常へ。
フランに慣れちゃだめだ。
「…ホストファミリー?」
「は?」
エスカバが口にした単語に、オレは首を傾げた。
「いや、だからホストファミリーの感じで接すればいいんじゃねーの?」
非日常的滞在期間は二週間、終わればはいさようなら。今まで本当にありがとうございました。
「…ああ、うん。いいんじゃない?」
さしずめ彼女は下宿先の娘さん…いや、奥さんって感じだよなぁ。
多分、最初の頃に比べたら
仲良くなったんじゃない?オレたち。
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