「はぁー…終わったぁ。」
やっとこさ課題を終え、私はソファーに全体重を預けた。
「あれ、終わっちゃったの?」
お風呂から上がったミストレが、リビングに戻って来た。
いつも綺麗に結われてる三つ編みは解かれていて、長いキューティクルな髪が艶々と輝いて見える。
「見せて?」
「え?」
「課題。合ってるか見てあげる。」
「あ、うん…。」
びっくりした、髪かと思った…。
ミストレは私の隣に座ると、それまで私がやっていた課題のディスプレイを自分の前に移動させた。
私はどんな批判をくらうことになるのかと少しびくびくしながら、その横顔をじっと見つめていた。
私とは違う、潤った深緑の髪。自分の毛先がパサパサなことに落胆し、神様私とこいつの性別を間違えたんじゃないかなんて疑った。
「…なあんだ。せっかくいびってあげようと思ってたのに、残念だな。」
ミストレがそう呟いた。
…ということはつまり?
「合格?」
「うん、一応ね。」
「やったあ!!」
学年No.2がこう言ってるんだ、やればできるんだな私。
「まだ十時過ぎだけど、明日は学校あるし今日はもう寝よっかな。熱は下がったけど、完治したわけじゃないし。」
「そっか、じゃあオレも寝るよ。」
私が返されたディスプレイを閉じて立ち上がると、ミストレは先にリビングを出て行った。
「…はずなのにどうしてそこにいるの?」
私は仁王立ちをして、私のベッドの上に平然として入っているミストレを睨んだ。
「どうしてって、いちゃ悪いの?」
ぐ、やだなあもう睨まないでよ怖いなあ。
「客室、そんなに気に入らなかった?」
別に綺麗にしてるし幽霊だって出ないのに。
「…はぁ。仕方ないから私があっちで寝るとしますよ。」
そう言って踵を返したのだが、ミストレに腕を掴まれた。
「部屋が気に入らないんじゃない、君がここで寝るからだよ。」
「はぁ?って、うわ!?」
いきなり強い力で腕を引かれ、私はそのままベッドに座るミストレの胸にすっぽりと収まってしまった。
「…嫌って言っても無駄なんでしょうね。」
「うん。いいね、物分かりのいい子は好きだよ。」
ぎりぎりと私を締め付ける力に降参の意を示せば、ミストレはそう言って小さく笑った。
「心配しなくても襲おうなんて思っちゃいないから安心してよ。あ、もしかして期待してた?」
「誰が!もういいからさっさと寝てよ!!」
「はいはい。」
あっちは慣れてるのか知らないけど、随分と落ち着いた様子だ。一方の私と言えば、他人の体温に触れて眠ることなんか本当に久しぶりのことで、一向に睡魔がやって来る気配が無い。
…それから30分くらい経っただろうか。
徐々にこの暖かさが心地よくなってきた。ちらりと視線を動かせば、眉が緩んだミストレの寝顔が目に入った。伏せられた長い睫毛、微かに聞こえる息遣い。
本当に、綺麗な寝顔だった。
「…王牙の生徒のくせに。」
途端に、私が持っていないものを全て持っているこの男が、酷く羨ましく思えた。
*
「……寒っ。」
深夜、妙に体が冷え、オレは目を覚ました。
身動ぎをすれば、毛布の感覚が無かった。隣で寝ているフランを見ると、案の定彼女が掛け布団を独占している状態だった。
「……っこの女!」
なんとも言えない気持ちで、オレはがっくりと肩を落とした。
「ホント、今までに無い屈辱だよ、こんな仕打ち…。」
そう呟きいて、オレはフランの纏っている布団に潜り込み、再び彼女を抱き寄せた。
冷たい空気に晒されていた身体は、彼女の体温をより温かく感じさせた。
一緒に寝ようか
子供体温だ……。
―――――――――――