幾ら時代が進んでも世界から悪人が消えないのと一緒で、世の中顔立ちのいい人間が得する事実は変わらない。


男子に好かれる子だって当然可愛い女の子だし、お伽話のお姫様や漫画の主人公だってなんやかんやで美少女だったりする。



「あっはー!なんてムカつく現実!!」

「イラついてんなフラン」
「イラついてんな」

「だって世の中可愛い子ばっかり得しちゃってさ?理不尽だと思わないかいゲボブボ君。」

「まとめて呼ぶなフラン!!」
「ちゃんと分けろ!!」

「ごめんなさ〜い。」

「補習はフランの頭が悪いせいだ!」
「フランのせいだ。」

「ごもっともですぅ。二人ともご協力マジで感謝ー。」

「チョコくれ!!」
「くれ!!」

「はぁい。」



土曜日。


一般生徒が休日を満喫する今日この日、何故私がこうして教室で勉強しているのかというと……そう、補習。


教室には私と、ゲボー君とブボー君の三人だけ。

補習を受けていた子は他にもいたんだけど、皆はそれぞれに与えられた課題をクリア・提出して帰って行った。
んで、最早一人でこの膨大かつ難解な問題共を片付けるのは無理であると判断した私は、調度暇を持て余していたトランガス兄弟を助っ人に呼んだ。



しかし、それでもやはり難しいものは難しいわけで、苛々が募り冒頭に至るわけなのだ。



「課題もミストレもツンツンで頭痛い、全然デレてくれない!!」

「フラン、ミストレと何かあったのか?」
「のか?」

「朝っぱらから電話でめっちゃ怒られた〜。よって朝からテンションがた落ちー。」






*






『は…補習ぅ!?』

「そう、補習。だからデートとやらには残念ながら行けません。」

『いろんな意味で信じられないよ……フランってそこまで頭悪かったんだ。』

「こ、今回は私以外にも補習仲間はいっぱいいるもん!!私は、そりゃ、ミストレに比べたら馬鹿かもしんないけど!!」



分かってる、こんなの負け犬の遠吠えだ。

あは、悔しい。



『約束したでしょ?』



一昨日辺り、確かにしたっちゃしましたよ。

でも、



「"いつか"しようね、みたいな感じだとばかり思ってた。」

『言い訳なんか聞きたくないね。』

「謝ります、すいませんでした。」

『本当に反省してるんならオレの靴でも舐めて。』

「嫌だ。」



何故そうなる。



『そう。…あ〜あ、なんか萎えちゃった。オレ馬鹿な子は嫌いだから、適当な女の子と遊んでくるね?』

「はぁ…えっと、どうぞご自由に。」

『それじゃ、フラン。"補習"頑張って?』

「はい…。」



壁に浮かんでいたディスプレイが閉じる。


わざわざ"補習"の二文字を強調して切られた電話。

この後学園に登校しろと言うのだから酷なもんだ。



「はぁ……。」



気持ちと足が重い、重過ぎる。






*






「…というのが私の朝の流れだよ。」

「ところでフラン、今何時だ?」
「何時だ?」

「あ、酷い二人とも、私の話スルー?えっと、今は…13時17分だよ。」

「マジか!!」
「マジでか!!」



二人が足をパタパタさせる。



「フラン、オレ達連ドラの再放送見るから帰るからな!!」
「帰るからな!!」

「え、ちょっ!?」



二人はそう言って教室を出て言ってしまった。

ドラマ?そんなの携帯のテレビで見ればいいじゃない!!



「ドラマに…しかも再放送に負けた。」



そうよね、主演すごく美人さんだもん。

まったく、やっぱり冒頭の台詞間違ってないじゃないか。



「……疲れた。」



なんだか急に眠くなってきた。


ちょっとくらいいいよね、と、私は意識を手放した。






*






「……っ!?」



腐っても軍人の卵ってやつだろう。

眼前に感じた人の気配に、私は目を覚ました。



「あ〜ぁ、起きちゃった。
完全に気配を消したと思ったんだけど、オレもまだまだってことだね。」



君ごときに気付かれるなんて。

そうため息を着いたミストレは、私の向かいの席に座った。



「生憎、医療と暗殺系に関しては好成績を修めてましてね。」

「ふーん……どうして?」



どうしてって……。というか、なぜここにいる。



「そりゃまあ、一応、軍人の家系ですし。両親の為にも、何に関しても駄目駄目な落ち零れ人間ってわけにはいかないわけであって…。」



ぼやけた視界を晴らすように、目を擦りながらミストレを見た。


彼は驚いた顔をしていて、珍しく私の話題に興味を抱いているようだった。



「軍人の家系?フラン、君が?」

「信じられない?悪かったね、"馬鹿な子"で。」



嫌味を込めて返せども、ミストレはそれを軽くスルーした。



「ねえ、君の両親の名前は?」

「教えない。」

「いじわる。」

「いじわるぅじゃない!色仕掛けなんかしたって無駄なんだからね!?」



ミストレは私のノートにこてんと頭を置くと、午後の青空が広がる外を見た。



「ミョウジ?……ああ、なるほどね。」

「?」



別に両親の名前を教えないのは"いじわる"なんかじゃない。
オトンが外であんまし親の名前を公言するなって言うからだ。



「君のお父さん、諜報部?」

「知ってるの?」

「まあね。へー……君が、ねぇ。」



なんだオトン、それなりに有名なら"ここ"で秘密にする必要ないんじゃないのかな。



「それはそうと、はい、差し入れ。」

「え?」



カタン。


机の上に置かれた炭酸飲料に、私は目を丸くした。



「…オレの顔に何かついてる?」



例も何も言わない私に気を悪くしたのか、ミストレは肘をついて私を見た。



「あ、い、いただきます!ありがとうミストレ!!」

「うん、どういたしまして。」



プルタブを開けると、炭酸特有の爽快感のある音が弾けた。



「ぁ……そういえば、よかったの?」

「主語が抜けてるよ。何が?」

「えっと、他の子とデート行ったんじゃなかったの?」

「ああ、なんかつまんなかったから。」

「へー…。」



流石遊び人、恋愛経験0の素人とは訳が違うぜ。



「なぁに?何かご不満でも?」

「いーえ。」



私がちょっとばかし口元を綻ばせて言えば、ミストレも満足そうに笑った。



「ほら、いつまでも黙ってないで、さっさと課題片付けなよ。」

「いやあ、それが私には難しすぎて…。」



そう言って頭をかけば、ミストレの柔らかな表情はピシリと固まってしまった。



「……あのぅ、」

「ぇ、嘘でしょフラン、まさかこんな簡単な問題が解けないなんて?」

「……。」



嘘だよ☆って、私だってそう言いたいさ。



「はぁ……信じられない。このままだと明日も…いや、数日は補習漬けの日々を送ることになるね。」



そのゴミ虫を見るような目、頼むから止めて下さい。

仕方ないじゃないか、苦手な部分どばっと出されたんだよ!
まあテストで点取れなかった部分の補習だから当たり前なんだけどさぁ!?



「教科書とか見てもさっぱりで。さっきまでゲボー君とブボー君に臨時教師お願いしてたんだけどね?」



ミストレは小さくため息をつくと、嫌味な顔のまま唇で弧を描いた。



「じゃあ彼等に変わって今からオレが君の"先生"になってあげるよ。」

「いやいや、ミストレ様にお手数をかける訳には。」



というか是非とも遠慮したい。



しかしミストレが私の意思を尊重するわけもなく。



「馬鹿なフランに基礎からきっちり叩き込んであげる。終わるまで帰さないから。」

「が、学校に泊まるの!?」

「何言ってんのさ、オレの部屋に決まってるでしょ?」

「嘘ぉ!!?」

「嘘じゃない、本気。無駄口叩いてる暇あったらペン持ちなよ。」

「……はい。」



カルス先生、先生が怖くてペン先が震えてしまいます。







やっとデレたと思ったのに

先生ェ……疲れましたァ…。


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