いくら時代が進んだからといって、人の心の善良化がそれに比例するとは限らない。

たまにいんだよね、王牙学園の生徒にいちゃもんつける不良がさ。現に私も2回ほど絡まれた。
まあ日頃の授業や鍛練の成果もあって負けたことは無いんだけど。

まったく、女の子だからって甘く見やがって。

銀行帰りはいつも早足で帰るんだけど、今日はそうはしなかった。
やっぱり一人じゃないからだな、隣に"男の子"がいるってのは結構安心だ。…人間性は気に入らないけど。


と、まだ銀行を出て3分も経たないうち、私はミストレとの雑談を止めて立ち止まった。



「フラン?どうかしたの?」

「ミストレ、あれ。」



私の視線はとある一点に定められている。

その対象は一人の制服姿の女の子と、チャラそうな三人の男。目立って騒いではいないものの、女の子の表情は明らかな恐怖を含んでいる。恐らく、というか、明らかに悪質なナンパだな。
周りの人は見ないフリ。まあこういうことは少なくないから仕方ない。勇気のあるサラリーマンが帰宅する時間でもないし、警官が常にここを見張っているわけでもない。


うーん…女の子は可愛いけど、男の方はそんなに格好よくないなぁ。

って、そんなことどうでもいいじゃい。



「絶対に困ってるよ、助けてあげようかな。」



あれ位なら、私にだって軽いと思う。



「待って!」

「ぇ!?」



駆け寄ろうとした瞬間、ミストレに腕を引かれ、私は背中から彼の腕にすっぽりと収まってしまった。
抱き付かれたことに対してちょっとドキッとしたけど、いろいろと状況が飲み込めない。



「な、何してんの!?」



第一ここは街中だっつの!



「フランが心配なんだ、怪我でもしたらどうするつもり?」

「……。」



絞りだすような声と腕の力に、一瞬狼狽えた。



「それに、たとえあの子を助けるためだとしても、君がオレ以外の男に触れるなんて嫌なんだ…。」



……。



「……呆れた。」



私はミストレの腕を無理矢理解くと、彼の目をまっすぐに見た。



「人が困ってるのを、私を口説く口実にするな。」



驚くミストレの顔を背に、私はナンパ男×3にずかずかと近づいて行った。
そしてそのまま足を止めることなく、女の子の腕を強引に掴む男の手首を下から蹴りあげる。



「嫌がってんでしょ、やめろ。」



今の私は頗る機嫌が悪い。

原因は勿論ミストレであるが…。


男が何か言ってるが、今の私には雑音にしか聞こえない。かかって来るなら応戦するまでだ。スカート?スパッツ履いてるんで問題無し。格闘実技は得意じゃないけど、相手が素人の"男"となれば話は別だ。
…いや、だって急所蹴って顔殴れば終わりじゃね?



「、」



戦闘において、無駄に力んだ声なんて出さない。それは敵地に侵入した際にばれないようにするため。ああ、私ちゃんと王牙学園で学んでるよオトン。



「君、大丈夫?」



私が脚を振るう後ろで、ミストレが女の子に駆け寄った。



「嫌がってる女の子に強行をとろうなんて、犯罪一歩手前。…街の治安を、乱さないで頂戴。」



いつもより低めの声でそう忠告し、ギリッと目を光らせる。



「わぁ…」

「カッコいいねぇ!」



事を見ていた通行者である女の子達が、そんなことを言っているのが聞こえた。

尻尾を巻いて逃げる不良を、私は得意気に見ていた。



「ぁ、あの!」



後ろから助けた女の子の声がする。



「その、…ありがとうございました!」

「いえいえそん……んん??」



どういたしましてな気持ちで振り向けば、何故か彼女は私に背を向けていて…。



「君みたいに可愛い子が困ってるのを、放ってはおけないからね。」



ミストレがそう言って微笑めば、女の子は顔を真っ赤にしてお辞儀をした。
……ミストレに。



「……え?」



あれ、ひょっとしてさっきのカッコいいってのも私じゃなくて…。



「あれ、なぁにフラン?」

「ミスト…ミストレなんて…っ!!」



何もしてないくせにっ!!







大体予想はしてました

やっぱり人生の損得って顔で変わっちゃうのね。


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