はっきり言っちゃうと、女の子は好きだ。
いや、別に性的な意味じゃなく。

特に王牙、というか自分のクラスの子達は皆いい人だ。たまにキツい事言ったり、言われた側の心臓にリアルにグサッとくる事なんかも言ったりするんだけど、ちゃんと善悪の区別や本当の優しさを理解した上での言葉。



「なのに胸張って"友達"と言える関係じゃぁないんだけどね、はは…。」



1人虚しく鞄に荷物を詰めながら、そんなことを呟いた。だからお昼はいろんな意味でビビった。私は輪の中心にいること、及びその集団に入ることが少ないのだ。

ああ、そうだ、ちょっと帰りに寄り道しなきゃ。2月に突入したことだしな。



「フランー。」

「…お迎えありがとうございます。」



教室の開きっぱなしの出入口を見れば、女の子を3人ほど連れたミストレがいた。私は彼に呼ばれ、大人しく鞄を持って近づく。彼女達も一緒に帰るのかと思いきや、ミストレがまたねと笑顔で手を振ると、彼女達はその場を後にした。

去りぎわに、1人の女の子が私を睨んだ。
私は何も悪くない、むしろ被害者なのになんで睨まれなきゃなんねーんだよ。

彼女の態度は気に入らなかったが、睨め返すことなどせずに依然とした態度で流してやった。
ミストレの顔を見れば、何故か口元が緩い弧を描いていて…。



「…何で笑ってるの?」

「別に?フランと一緒に帰れるから。」



そういうことにしといてやろう。



「あ、あのさ、ちょっと銀行に寄ってくけども…」

「いいよ?一緒に行ってあげる。」



別について来なくてもいいんだけど…。






*






「ねえフラン、せっかくだから喫茶店でも寄らない?」

「え〜、無理だよそんなの。」

「どうして?」

「制服…今王牙の制服着てるから。」



だからだろう、さっきから昨日とは違った意味の視線を感じる。



「ふーん。君って、あまりそういうの気にしない人だと思ってたよ。」

「はぁ、」



ミストレは一間おくと、じゃあさ!と一つの提案を持ち出した。



「週末はデート行こう、私服なら問題無いでしょ?」

「ない、けど…是非お断りしたいよ。」

「だぁめ。」



だよね。

あーあ、貴重な休日が…。



銀行に着いた私は、鞄から身分証明となる王牙学園の生徒手帳と、電子通帳を取り出した。
長くなるかもしれないから帰ってもいいよって言ったけど、別に構わないそうなので、ミストレには入り口で待っててもらうことにした。


お金や書籍の電子化が進んだこの時代ではあるが、"現金"はまだ現役で活躍中。

オト…父は仕事柄家にいることが滅多に無く、母は海外。
母方の祖父母は生きているけど、県外で暮らしている。事実上、私は妹と二人暮し。



お金は軍にいるぉ、ち、…オトン!オトンが口座に振り込んでくれるので、生活費には困らない。
そういう流れで、私は月初めになると残高チェックや引き落としetcをするために銀行に来る。



本来、私は王牙学園の制服で出かけることをあまり好ましく思わない。けれども未成年で銀行を利用するにはそれなりの"信用"や証明が欲しいのであって…。



「……。」



0のいっぱいある残高を見ながら、ふと思った。



「どうして皆、"王牙"を恐れるんだろ…?」



サッカー?サッカーを禁止して罰っするから?
サッカーってそんなに楽しいのかな??
家で生前のじいちゃんと一緒に電子ボードゲームや1人でひたすらRPGをしていた私には分からない。

ただ、テレビに映るエレメントサッカーの試合を、じいちゃんはなんだか懐かしそうに見ていた。



「……。」



百万以上の現金取り扱いを行うので、私は受付のお姉さんに生徒手帳を出して銀行の奥に連れられて行った。


…友人が行くからという単純な理由で王牙学園の入学を決めた私だが、その他にもちゃんとした"意志"はあった。…まあそれは置いといて、オトンが軍人ということもあり、私は幼い頃から"軍"に対しての畏怖や嫌悪などの感情を抱くことなど無かった。
むしろ王牙学園の軍服を着て歩く少年少女が格好良く見えて仕方なかった位なのに…。



「まあ確かに、たまに死にかけるけどさ。」



……戦闘実習とかで。
あぁ、その他にもいっぱいあるや。




電子通帳を開いてATMと接続、暗証番号と指紋認証を済ませる。面倒なこの作業にももう慣れた。

えっと、今回の振り込み…つまりはオトンの給料の額は、と。
……ちょ、どうしたのよオトン。
何、何この急な大金。ボーナス?任務終わりかな?
まあいっか。


よし、引き落とし終わり!

パタンッ、通帳を閉じ、接続を切り、引き落とした現金を手に取る。


うわぁ万札だよ、相変わらず怖いなぁ…。普段電子マネーにお世話になりっぱなしな私にとって、札束なんて銀行以外では触れる機会が無いから、この瞬間は結構緊張する。必要な分と小切手にする分を分け、小切手にする方をまた受付の40後半と見えるお姉さんに渡す。何に使うのかというと、海外…というか発展途上国にいるオカン(日本人)に送る。あっちの方は未だ電子化もろくに進んでないから、アナログな方法で送ってる。変換(?)はあっちの国でなんとかするのだろうね、よくわかんないけど。



……よし用事終了!

ミストレ待たせてることだし、さっさと出るか。






*






……で。



「あぁごめん、終わったみたい。またね?」



ミストレは何やら通りすがりの女の子と雑談をしていたらしく、ミストレが私が戻って来たのを確認して女の子にそう告げると、女の子は可愛らしい口元を綻ばせて去って行った。



「…いいの?」



せっかくの出会いを潰して。
あの子アンタに惚れたんじゃね?


そう思ったのだが。



「別に?単なる暇潰しだし。」



…ああ、やっぱりハーレム持ちは違うなぁ。







銀行→家

寄り道なんぞ致しません。


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