「美味しい!!」



お昼休みも残すところ十分。
私は自分の教室の自分の席で奇声を上げた。すると次の授業の準備をしていたザゴメル君が私に若干引いていた。



「ど、どうしたんだフラン?」

「ザゴメル君!!おにぎりって素晴らしいね!?ありったけのお米さえあればきっと世界中平和になるよ!!」

「米で世界が救われるんなら、俺達が王牙に通う意味が無くなるな。」

「そしたら一緒に料理学校でも行こうねザゴメル君。」

「何でだよ。というかフラン、お前そんなに握り飯で喜んで…さっき弁当持ってなかったか?」



……。



「…長くなるけど聞いてくれる?」

「…授業始まる前には終わるか?」

「無理。」

「だろうな。それ以前に食いながら話すのは止めろ、米が飛ぶ。」



ザゴメル君の言葉に、私はお米を頬張りながらうんうんと頷いた。


よし、ここまでの経緯…美味しくないから美味しい!!
までの流れを大まかに説明しよう。



あの状況の中、弁当箱の中のおかずをなんとか片付け、残すは別のケースに分けて持って来たおにぎりだけ!となった。しかしそこで思わぬ邪魔…いや、むしろ私にとっての転機がやって来たのだ。
とある女の子が、ミ、ミストレ君…よかったらこれ!!な感じでミストレに小さめの箱を渡した。中身はたっぷりのドライフルーツの乗った可愛らしいカップケーキ。フェミニストである奴はそこで彼女の好意を有り難く受け取る。
私はそのままおにぎりの存在を隠し、さもお昼ご飯はお仕舞い、的な感じを出して"さりげな〜く"退散して来たわけである。
おにぎりはお米、つまり炭水化物、カップケーキもパンに分類するとして炭水化物。栄養バランス的には問題無しだ。



「明日からお弁当もう一つ作んないと…。」



別にあいつを思ってのことではない。今日みたいなことはもう二度としたくないからだ。



ん?

何やら闘牛の如く荒ぶって教室に入って来た女の子は私の幼なじみ兼親友ちゃんじゃないですか。



「フラン!?アンタミストレ君と付き合ってるってマジ!?」

「うぎゃー!!?そんなこと大声で言うんじゃねー!!!!」



教室にいた全員が一斉に私を見た。ちょ、いくら士官学校だからってこんな時まで揃えなくていいよ…。



「え、嘘!?フランちゃんて恋愛に興味無い系かと思ってた!」
「というかあたしライバルだ!!覚悟しといてねフラン!!」
「あぁ!私だって負けないからぁ!!」
「やだぁ、ミストレ様についに本カノ!?フランどうやったの!?」
「す、スクープだよ!!フラン、話聞かせて!?学校新聞に載せる!!」

「み、みんなぁ……あのねぇ…」



クラスにちょとしかいない女子が皆私の周りに集まってしまった。ミ、ミストレの知名度&人気を改めて実感した。というか、とりあえず学校新聞だけは勘弁してくれ。



「ちょ、皆!!違うって!!私はミストレーネなんかっ!!」



好きでもなんでもないんだよ!!

…と言おうとしたのだが。
私に言い寄る彼女達の、更に後ろにいる人物と、私はばっちり目が合ってしまった。





「……ミストレーネなんか、なぁに?」

「ぇ、む、ぁ、ミ、ミストレーネ…。」



何故ここに。


皆も奴の突然の登場にびっくりしている。ミストレが一歩私に近づけば、皆は自然と彼の為に道を開けた。



「ミストレって呼んでって…言ったよね、フラン?」

「言われた…言われましたっ!!」



顔近っ!?


後ろ手を伸ばしてザゴメル君に助けを求めるが、それさえミストレに押さえ込まれてしまった。



「忘れ物、届けにきてあげたんだけど。」



あ、箸…。

手渡されたのは、きちんと箸ケースにしまわれた私のお箸。



「ぁ、ありがとう、ミストレ…。」



彼をミストレと呼ばなかったことと、教室を半ば強引に脱走したせいか、じわじわと伝わってくる怒ってますオーラ…。私はこれ以上ミストレの機嫌を損ねてはいけないと思い、必死に笑顔を取り繕った。



「さ、さっきはごめんなさい、ぁの…えっと、あの女の子のお邪魔になっちゃうかなぁ、って思って!!」

「そんなの、気にする必要なんてないでしょ?オレは今フランのモノなんだから。」

「なっ!?」



女の子達が黄色い声を上げて盛り上がっている。



こいつ確信犯か!!



……はは、やだもう。どーせ期間限定の恋人なのに、皆して騒いじゃってまったく。約14日後には学園中が破局報道に湧くよ…どーせ私は笑い者だよ。

あ、エスカバ君達が食堂から帰って来た。…ちょ、私と目が合ってそんな嫌そうな顔しないで?きっと原因はミストレなんだろうけどさ、なぜか私傷付いちゃったよ。



「フラン、」



ミストレが私を呼んだ。



「ご飯粒、付いてるよ?」

「は?」



答える暇も無く、頬に柔らかな感覚。

やけに耳に響くリップ音。

騒ぐ女子。



「……え?」



眉間から皺が、
頭上から疑問符が消えない。



「てめ、ミストッ…っ〜!!公衆の面前でそーゆーことするんじゃねぇよっ!!」



顔を真っ赤にしたエスカバ君がそう叫んで、私は初めて状況を理解した。


クラスの…いや、ザゴメル君とエスカバ君を除いた皆の誤解は、多分一生解けそうにない。


クスクスと笑いながら、耳元でミストレが何か囁いた。






もう逃げられないね…?

……なんてこった。


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