1日の授業が終わって、私は大きな背伸びをした。



「あ〜っ!!…やっと終わったねえザゴメル君!!」

「後半寝てたくせにな。」

「今日はたまたまだから!」



"部活"という制度は王牙学園には無く、放課後は基本的に自習の時間。図書室で勉強するもよし、トレーニングルームで体鍛えるもよし、寮に戻って休むのもOKだ。

友達は皆自習室で勉強なのだが、私は鞄に荷物を詰めて帰り支度をする。
忘れ物が無いか入念にチェックするのは、私が寮生ではないからだ。
自宅が歩いて20分位の場所にあるのに、高い金払って一人暮らしもなぁ……ということで、私は家から直に通っている。ただ、割合的には、寮暮らしの方が圧倒的に多い。

いいなあ寮暮らしは、すぐに自分の部屋で休めてさ。
今日も一日疲れた疲れた!
特に午前中な!
あの意味不な会話な!!


家路への第一歩だと、廊下に出た直後。



「やあ、待ってたよ。」

「どうして?」



何か少し怒ってるっぽいミストレーネがいた。
なんで待ってたのか大体見当はついたけど、あえて爽やかに首を傾げてやった。



「どうしてじゃないだろ。お昼に迎えに来ないと思ったら勝手にどっか行っちゃってるし、今も一人で帰ろうとしてたでしょ!?」

「それが何か?」



ミストレーネの口から出たのは意外な…いや、大方予想通りの言葉だった。



「一緒に帰ろ?」

「お気持ちだけありがたく受け取っておきます、どうも。」

「待ちなよ。」



当然この人から逃げられるはずもなく、急ブレーキをかけるように、腕をがっしりと掴まれてしまった。
ミストレーネはそのまま私を引き寄せると、後ろから肩に手を乗せ、耳元で囁いた。



「オレから逃げられるとでも思ってるの?」

「…希望は捨ててない。」



肩に置かれた手の力が強くなる。

いたた…。



「そんな浅はかな希望は早々に捨てること、いいね?」

「ひっ!?はい!!」



直接顔を見なくても、ミストレーネのブラックな笑顔が分かった。

多分ここで断ったら肩の組織を潰される。









*









「ねー、せっかくオレと一緒にいるっていうのに何?その世界の終わりみたいな顔。」

「むしろ貴方と一緒にいるからだよっ!」



彼と一緒に歩いているせいか、なんかいつもより人の視線を浴びているような気がする。
すれ違う人たちは男女問わず絶対に振り返るし?

男性の方々は奴を中性的美少女だとでも思っているのでしょうか…。



「あー、なんか視線痛い。」



私が肩を縮めてそう呟けば、ミストレーネは何故か笑った。



「なんで?注目を浴びるのって気持ち良くない?」

「私は貴方と違って慣れてないんですぅ。」



そういえば、ザゴメル君の肩に乗り始めの頃はちょっと注目浴びたかも…でもザゴメル君といるっていう安心感が大きくてあんまり気にならなかった。


…今はその真逆だ、危機感しか感じねぇ。



「…明日学校行きたくない。」

「どうして?」

「ミストレーネさんさっきから疑問符多くないですか?」

「質問してるのはオレ。ていうか、ミストレって呼べって言ったよね?」



あ、やだ。この人笑顔怖ぇや。



「あい…仰る通りですミストレさん…」

「さんもいらない。恋人同士なのに、そんなに畏まらないでよ。」



頬を膨らませて抵抗の意を表せば、人差し指でぷすりと潰された。



「あだだだだ、ちょっと、力強い力強い!」



ぐりぐりいっとるがな。



「つーか期間限定だろうがなかろうが、私はミストレと恋仲にあるなどとは認めてないからな!!あ〜ぁ、私明日絶対お約束の展開、ミストレの親衛隊のお姉様方に呼び出しくらう。体育館裏で半殺し。最悪の場合死亡フラグ!」

「大丈夫だよ、その点は心配ないって。」



嫌味ったらしく横目で睨み付けてやれば、ミストレはふんわりと笑った。



「もし何かあっても、オレがフランを守るよ?」



そう言って、ミストレに指を押し付られて赤くなった私の頬を愛しそうに撫でるその顔は、本当にかっこよかった。



しかしだね、



「私がそんな胡散臭い笑顔に赤面するとでも?」

「へえ、これでも駄目なんだ。」



それまで撫でていた頬をその手の甲でぺちぺちと軽く叩くと、ミストレは感心したように手を離した。



「君、本当に珍しいね。」

「人を希少動物みたいに言わないで。
 …じゃあ、私ここだから。」

「そう、じゃあまた明日ね、フラン。」



にこにこと笑う今度の表情は、どうやら本物のようだ。


しかし、今来た道を引き返そうとするミストレに、私はクエスチョンマークを浮かべた。



「あ、ちょ、ミストレ!?」

「何?」

「あの、ミストレってこの近くに住んでるの?」

「ああオレ?寮だよ。」



え。



「それじゃ、明日からは一緒にご飯食べようね?待ってるから。」

「やっぱり決定事項?というか私が教室までミストレを迎えに行くの!?」



クスクスと笑いながら手を振って歩いて行く奴の背中を、私はただ呆然と見つめていた。





明日からじわじわと寿命が減っていきそうだ。







送ってあげる。

しまった、家バレた。


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