見つけた理想の王子様



あまいものが好き。だけどカロリーが気になるし、可愛くありたい。オシャレだってしたいし、理想の王子様探しも抜かりなく。

女の子はよくばりでわがままな生き物なのだ。


だけど理想の王子様、これはなかなか難しい。ときめきとドキドキと、少しの刺激をくれる王子様。


毎朝ルームメイトよりちょっと早起きをしておめかしをする。それから可愛く見える仕草の研究も頑張っている。


努力のかいあってか、ちやほやしてくれる男の子はたくさんいる。可愛いねっていっぱい褒められたり、デートにたくさん誘われたり。だけどそれじゃあ全然満たされないのだ。


「なんかいいことないかな?」


そう友人に問えば、彼女は「例えば?」と私に尋ねた。


「例えば、廊下で歩いてたら理想の王子様にぶつかったり。」


「例えばその人が首席だったり?」


「そう!例えばその人が監督生だったり!」


そんな夢のようなありえない話にくすくすと笑っていたら、角で人にぶつかって尻餅をついてしまった。


先ほどまで廊下でぶつかったり、と話していたことを思い出す。だから緊急事態にもかかわらず、つぶっていた目を開けるときは上目遣い気味に目を開けてみた。


「いてて…すみません。」


すらりと伸びた脚から顔面になかなかたどり着けない。しかもその途中できらきら光る監督生バッジに首席バッジを見つけた。


あ、私この人知ってる。


「大丈夫?」


彼は声をかけてくれると同時に、ばっちりと目があった。トム・リドルだ。我らがホグワーツが誇るスリザリンの監督生。


ええ、大丈夫よ、と返答をしようと思ったが、ふと気がつく。


「…手は差し伸べてくれないのね。」


女の子が転んだら、男の子はその手を優しく引いてくれるものでしょう?


私の言葉に、彼は面食らったように顔をしかめる。その瞬間、自分の頭の中にある玉がきらきらがはじけとんだ。


…ん?


彼が笑顔を作ったらきらきらは気のせいだったのかもと思い直す。差し伸べられた手もなんだかつまらなくて、その手をとらずに立ち上がった。


「ごめんなさい、なんでもないの。」




これが私と彼の出会いで、一年前の話。


私はあれ以来しつこくトム・リドルにつきまとった。あの時はじけたキラキラの存在を確かめようとしたのだ。


「リドル、隣いいかしら!」


そして気がついた。


「また君?」


私は、彼にそっけない態度を見るとどうしようもなくうれしくなってしまうのだ。最初こそ「どうぞ」って微笑んでくれて、その時はなんのときめきも感じなかった。だけど時折見せる嫌そうな顔がたまらなくて、晴れて彼のファンに。


今ではいつでも完全塩対応だ。
周囲の人間も彼の私に対する態度にはじめこそ驚いていたみたいだけど、今では日常風景だ、


とりあえず座ってしまおう。どうせ最後にはいつも「好きにすれば」と言ってくれるのだし。なんだかんだで優しい人なのだ。


「ねえリドル、私今日髪の毛を結んでみたの。どうかしら?」


「別に。」


「みんな可愛いって言ってくれるのに?」


「ふーん。」


うん、好き。

厄介な人を好きになった自覚はある。女の子は絶対に愛されて、尽くされた方が幸せに決まってる。


だけど、これはある意味で特別扱いなのだ。
他の子に対しては優しいのに、私に対しては全然なんだから。


「君、よく飽きないね。」


「なにが?」


「大概、同じ反応ことをされれば飽きがくる。新鮮みが欲しくなるものさ。」


「じゃあもしかして私が毎日話しにくるのも飽きちゃう?」


つまり、私の行動にもそろそろ飽きたということが伝えたいのだろうか。それなら別の手段をとって彼にアピールをするだけなのだけれど。


「それは…」


言葉を濁したリドルを見つめてみる。視線を泳がせる彼がぽつりと飽きてない、と言ってくれることを期待している。いくら冷たい対応が好きだなんて言っても、好きな人の返してくれる愛情には敵わない。



「飽きたね。」



だけど彼の得意分野は私の期待を大きく裏切ることで。やっぱり期待通りの答えなんて返ってこない。落胆していると、堂々とした自信ありげな笑みを浮かべた。


「別の反応が見たいって言ったら?」


そう言って、瞬く間に私の髪の毛をとって毛先に唇を落とす。しかもしっかりと私の目から視線を外さないで。


彼の行動は私が真っ赤になるには十分で、いまだに私を見つめてくるリドルを自分の視界に入れるなんてできなくて床を見つめていたら上から降りかかる笑い声。


「サラのそういう反応も悪くない。これからは照れてる君を見るのもいいかもね。」


なんなんだ、急に。
今までの塩対応はどこへ行ったのだ。


「いい顔してるね。君みたいなタイプを落とすのは苦労したよ。可愛いって言われ慣れてて、普通に優しくしたんじゃ意味がない。」


…おかしい、何かがおかしい。


「まあ所詮君は僕の掌の上で転がってるってことだよ。」


この人、今なんて言った?


私にそっけない態度を取っていたのはすべて彼の計算ということだろうか。


「本当に君はかわいいよね。」


破壊力抜群。
いまだかつて、誰かにかわいいと言われてこんなに心臓が暴れたことがあっただろうか。


「じゃあね。」


リドルはそう言って私の頭をそっと撫でた。


ドキドキと心臓が暴れて、とても刺激的。もしかしたら彼は理想以上の王子様なのかもしれない。

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