押して、押して、押しまくれ!
「好き!大好き!」
私の好きな人は、立派な人だ。
監督生で首席でハンサムで、それからちょっぴり意地悪だけどとっても優しい。私が好きっていうと彼は決まって面倒そうにこう言う。
「君の好きは聞き飽きた。」
しかもこちらに顔すら向けずに課題と向き合ったまま。けれど、彼が聞き飽きていようとも私はまだまだ言い足りないのだ。
「先輩がそう言ってくれるの、私とっても嬉しいんですよ。」
リドル先輩は涼しい顔をしてペンを動かしていたのに、突如ピタリと止まって私を見てくれた。怪訝な顔をされたけれど、すごく嬉しい。
「…なにそれ気持ち悪い。」
「昔よりも、今の方が本当の先輩を見せてくれてる!って思って嬉しいんです。」
本当の先輩、なんておこがましいかもしれないけど。だって先輩みたいな立派な人の考えは私ごときには分からないんだから。
「でも、たまには昔みたいに『君の元気なところ、僕も好きだよ』って言ってほしいです。」
彼に自分なりのとびきりの笑顔を送ってみる。彼の返事は長い長い溜息だけで、笑顔をむけた効果は0だったようだ。
「先輩のケチ。他の子には好きって言うのに。…あ、でもある意味私だけ特別扱いですよね。」
先輩はいい意味で言ってないんだろうけど、好きな人の前でくらいポジティブでいたい。
ね、ね、と返事を求めて顔を覗き込んだ。が、リドル先輩はまた課題に戻ってしまった。本当につれない人だ。
「…いいです。そういうところも大好きです。」
先輩はもう相手にしてくれる気はないらしい。だから私もおとなしく、となりでやりかけの課題を開いた。
もくもくと励んでいたのだけど、やっぱり理論的に考えるなんて向いてない。つまづいて止まっていれば、リドル先輩が「なに」とまたまた面倒くさそうに言ってくれた。ほら、やっぱり優しい。
聞かなくても教えてくれるし、質問すれば先生よりも丁寧にわかりやすく教えてくれる。こうやって教わる時に、頭が近くなるたびにドキドキしてるのは私だけの秘密。
もうそろそろ説明が終わりに近づいてしまうな、と思って残念に思っていた時だった。「きいてる?」と先輩が顔を上げたから近さにびっくりしてしまった。すかさず聞いてます!と返す。先輩のかっこいい声を聞き逃すわけないじゃないですか。
「ふーん」
それだけ聞いてすぐ課題に視線を戻してしまう。もう少し、近づいた拍子に見つめ合ってちゅーしちゃったとかあっても良くないですか?大体、こんなにアピールしてるのに全然分かってくれない。
まあ、こんな不満を言っても仕方ない。私が好きになった人は難攻不落だなんて今に始まったことじゃない。先輩の説明に意識を連れ戻してまじめにお勉強モードに切り替えた。
そう、切り替えたのだけれど。先輩の口から出たのは勉強に関することなんかじゃなくて。
「君のこと好きだよ。」
私の方なんて見ないでぽつり。無表情で、いつもと変わらないトーンで。それから何事もなかったように課題の説明に戻ってしまった。
「え、え、先輩!今のなんですか!今。好きって!!」
「…うるさい、君もその他大勢のうちのひとりってことだよ。」
…いやいや、そんな真っ赤で言われましても!
(やっぱり先輩好きです…!)
(うるさい生徒H)
(先輩は私の特別です!)
(...あっそ)
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