ブスとナルシスト

「まず、成績優秀で、運動能力も高い。マグルの孤児院育ちでありながらもその態度はまさに優等生。スリザリンに選ばれ、そのリーダーとしての資質を発揮しながらも、すべての寮生からの信頼を得ている。おまけに顔で良くて、モテる。


これが僕だ。」



はじまった。ナルシスト発言。いったい何を言っているのだという批判すら、この美しい青年の前には無意味だ。なんせこれは彼に対する世間の声だからだ。夕食をとっている現在も、多くの女子生徒の視線を一点に集めている。


「ただ、この学生生活の中で、僕には唯一の汚点がある。」


びしり、彼が私をフォークで指差した。そういう品のなさだろうよ、と突っ込みを入れたくなったが、咀嚼中なので黙っておく。



「君みたいなブスが恋人だということだ。」



…本当に、頭が痛い。なにが優等生だ。なにが信頼だ。しかし慣れとは怖いもので、最初は傷ついていたこのブス発言も日常の一コマとして大した悲しみは感じなくなった。



「悪かったわね、ブスで。」



事実、私はブスだ。目は細いし、唇だってなんだか血色が悪い。かろうじて鼻筋が通ってるのだけは救いだけど、前歯が大きいのも気になる。同じパーツを持っていてもブスじゃない子はたくさんいるのに、組み合わせが悪いのか、私はどうにもブスだ。コンプレックスの塊だ。


「で?あなたの学生生活の唯一の汚点にどうしてほしいわけ?別れる?」


絶対にノーと返ってくるとわかってて、こんな質問をする。だって、なんでか分からないけど、リドルは私にベタ惚れなのだ。もしかしたらブス専なんていう気色のわるい性癖持ち主かもしれない。



「まさか。別れるわけないでしょ。だいたい君は付き合う前からブスなわけだし、今に始まったことじゃない。」


案の定、答えはノーなのだけれど、腑に落ちない。普通のカップルだったら、君のことが好きだから別れないとかなんとか甘いセリフの一つでも吐いてくれるだろうに。



「君がそんな怒りっぽいのはブスが原因?ブスだからからかわれて捻くれたの?」


この男はさらに暴言を続ける。あながち間違ってはいないような気がする。可愛い子は褒められてすくすくと良い子に育つけど、ブスはちやほやされないからどんどんコンプレックスが大きくなって、卑屈に育ちそうだ。顔もブスなら性格もブスなのだ私は。


「リドルが毎日ブスブスうるさいから怒りたくもなるわ。」


イラついたまま返したら、彼はクツクツと喉の奥で笑った。先ほどの考えは早急に撤回しよう。イケメンもこれだけ捻くれた性格になるのだ。性格と顔に一切の関係はないと結論づけることができる。



「好きな子の感情の理由になれるのは嬉しいことだね。」



「…頭おかしいんじゃないの。」



私の返答は間違ってないんだ。決して。好きな子の笑顔を見たいっていうのは分かるけど、嫌がられたいなんて意味がわからない。子供じゃあるまいし。散々ブスだブスだと言っておいて、相手を怒らせて喜ぶなんて変態だ。サイコパスだ。


だけど、実際、彼がこんなことを言うのは実はちょっと嬉しかったりする。好きと言われたら嬉しくないわけがない。にもかかわらず、捻くれた性格ゆえに素直になれなくて、ついつい悪態をついてしまう。


リドルはそんな私の気持ちが分かっているかのように勝ち誇ったような顔でこちらを見ていたから、足を踏んでやった。


「痛っ。本当、ブスのくせに性格まで悪いよね。」


「はいはいすみませんね。顔も性格もブスな女なんかやめて可愛らしい女の子と付き合えば。ほら、よりどりみどりじゃん。」



ほら、ほらほら、と私に痛いほどの視線を浴びせる美女たちを順番に見やる。リドルは嫌そうな顔をして、私と同じ視線の先を辿る。それから最後に私へと視線を戻す。聞かなくてもわかる。やっぱり君が1番のブスだ、って顔だ。




「だってああいう女ってつまんないからさ。君みたいに、人を信用しない捻くれたブスの方が調教するかいがあるよ。」


男の支配欲が満たされるよね、と。
全く、褒められてる気がしない。


さっきからブスとしか言われてないのに、「だから僕は君がかわいくて仕方がないよ」なんて言われてしまえば、単純な私はブス発言の連鎖を許して満たされてしまう。



なかなかどうして、私はこのずるがしこい美青年に惚れているらしい。




(リドル気持ち悪い)
(君の顔面ほどではないよ)
(は?)
(なに?なんか間違ってる?)


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