ブスと青春

「ブス」

「喧嘩売ってんの?」


朝一、会って早々ブスだと言い放ったリドルに容赦なく噛み付いた。慣れたとは言っても気持ちの良いものじゃない。


「君は昔はもう少しいじらしかったよね。」


この場合私は絶対に悪くないのに、リドルは不機嫌を前面に押し出してさりげなく私の横を歩きはじめる。私のルームメイトはと言うとよくできた女で、いつの間にかフェードアウトしていた。彼女曰く「喧嘩も惚気もごめん」らしい。


「昔っていつの話?知り合ったのはせいぜい3年ぐらい前だけど。」


「十分昔だよ。昔はそんなに口も悪くなかったのに。」


「どうも。誰かさんのおかげで口が達者になりました。」


こんなにブスを連呼する人だったら、当時の私は絶対に好きになったりしなかったと思う。ブスはなによりのコンプレックスで、容易に私を傷つける言葉だったから。


あの頃、幼い同級生たちにとっては、容姿は良い判断材料だった。いじめとは言えない程度ではあったものの、私は度々同級生たちの良いネタにされていた。あいつがブスだといじれば軽い笑いがとれる、といった具合だ。


うつむいて、顔を隠してばかりだった私をリドルは救ってくれた。


『ブスかどうかなんて単なるあいつらの主観だよ。』


当時のリドルが言ったこと。彼からしたら大したことじゃなかったのかもしれないし、今思えば、私からしても大したことじゃない。だけど救われたのは確かだった。


ただ、疑問には思うことはある。


「リドルは、あの時私のこと好きだったの?」


「あの時って3年前?別に好きじゃないよ。サラに声をかけたのはなんとなくさ。」


そういえば、朝食を食べに大広間に向かっていたはずなのに随分と遠回りをしている。わざとなのかそうじゃないのかはわからないけど、もう少し2人きりで話すのも悪くない。


「…ブス専とかじゃなくて?」


2つ目の疑問。実はずっと気になっていたのだ。いじめられっ子のマートルにもやけに近づいているし。リドルは口角をあげると、私に視線を送った。


「まさか。僕が顔で君を好きになったとでも?君ってブスなのに、やけに自信過剰だね。」


ときめくはずの台詞も、あとにつく言葉ですべてかき消されてしまう。もし私が美女だったら、顔で好きになったんじゃないとか言われたら死ぬほど嬉しいに違いない。


「もっと良い言い方なかった?」


私の疑問を、今度はリドルは答えてはくれない。その代わりに、「ただね」と言ったから、何かを続けるらしいということはわかった。


「ただ、君が僕を好きになって変わっていくのが可愛いと思っただけさ。気付いたら、君の顔まで可愛く見えてくるんだから不思議だよね。」



リドルは至極あっさり、とても嬉しいことを言ってくれたみたい。嬉しすぎて恥ずかしくなんてなくて、あるのはふつふつと湧き上がる喜びだけ。一方リドルはというと、全然私を見ようとしない。それどころかスタスタと先を歩いてしまう。


「ねえ、恥ずかしいんでしょ。」


追いついて顔を覗き込むと、やっぱり首から上が真っ赤。それから、答えてくれる気はさらさらないらしくそっぽを向いてしまった。こういう時、さらっとかっこよく決められない不器用さがリドルらしい。


リドルはようやく辿り着いた大広間の扉に手を伸ばした。だけど私はリドルがノブを回す前にその手をとって、握る。



「ねえ、朝ごはんは後にしてもう少しふたりきりで話そうよ。」


せっかく彼が素直になってくれたんだ。


たまには私も素直になって、甘えてみるとしようじゃないな。



(私はリドルの顔が好きだよ)
(は?)
(かっこいいもん)
(ふーん)
(珍しく褒められたから照れてるでしょ?)
(うるさいブス)


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