ビル先輩!あの女嫌いです!


「ウィーズリー先輩!今日のお昼ご一緒しませんか?」


ハートを飛ばしながらお財布を持って私の部署に訪れた見覚えのある女。ホグワーツ時代に私を目の敵にしてきたスリザリンの女だ。絶賛ビル先輩を狙っている最中らしい。


あの女に絡まれるのも面倒だから早めに部屋を出よう、そうしよう。そう思いたちそそくさと机を離れてドアノブを捻る。


「サラ?どこか行くの?」


にっこり、そんな音声でも聞こえてきそうな笑顔をビル先輩に向けられて私の脱出計画は一分もしないうちに失敗に終わった。大人しくオフィスにとどまるしかなさそう。


「サラ・ウェリントン…またあなたなのね…」


「私だって好きにやってるわけじゃないし、そもそもここは私の部署だもん。」


小声で私に文句を言ってくる元同級生にはほとほと呆れるが、付き合うしかないみたい。ビル先輩はほがらかに「二人は仲が良いんだね」とか抜かしている。別に仲良くないし、むしろ全然悪いわ。


「そんなことより、ウィーズリー先輩!私サンドイッチ作ったんですけど、食べませんか?」


はじまったよ、女の子アピール。この女はいつだったかチャーリーに料理が得意だとかなんとか言い寄っていた。別にいいんだけど、いいんだけどなんか腹がたつ。一応は断ったにしても、ビル先輩も満更でもない顔しちゃって!


その上この女は断られたくせにめげずにビル先輩に目線でハートを送り続けている。いつもの蛇みたいな目線はどこにいったの!


「ウィーズリー先輩は恋人はいらっしゃらないんですか?」


この女に賛同するのは癪だけど、それは若干私も知りたいところ。セクハラ魔神だからいないと踏んでいたがあらためて考えるとどうなんだろうか。私まで彼女にならってビル先輩に視線を送る。すると、意外な答え。


「いるよ。」


彼はそう答えると私にウインクをする。


「ここにいるサラ・ウェリントンが僕の恋人。」


このウインクは、仕事中にときおり送られてくるもの。大抵は話を合わせろ、というメッセージの場合が多い。きっと今回もそういうことだ。この女を追い払うために合わせてやろうじゃないか。


「ま、まあね。」


「だってサラは僕の家に来たこともあるもんね。」


「え、いや、あれは不可抗力…!」


「おっぱいも触ったし。」


「それは違うじゃないですか!」


反論しかけた私に再び、ビル先輩のウインクが飛んできたから笑ってごまかした。


「え〜そうなんですか〜!ウィーズリー先輩の趣味って変わってらっしゃるんですね。」


この後は最悪だった。この女は会話から私を完全排除しようとビル先輩に質問攻めだし、ビル先輩が私に話題を振ろうもんなら射殺さんばりの視線が突き刺さった。もうそろそろ休憩が終わると彼女が言った時には、本気でホッとした。


「ようやく帰りましたね…。ていうか、家に行ったことあるのも胸触られたのも私の意志じゃないです!」


はあ、とため息が漏れる。最初は私もノリ気だったけど、嘘をつくのはなんだか疲れる。ケタケタと笑っている彼は言動に似合わずかっこいいから困る。


「ごめんね。でもそれは嘘じゃない。なんなら君のその手は僕の性器を触ったこともある。」


発言は本当に許せないけどね!!!


「本当最低です!変態!すけべ!セクハラ男!」


私の罵倒は、全て彼の笑顔に吸い込まれていく。言葉のレパートリーの少なすぎる私の威勢は徐々に弱まっていく。


「ここにいるサラ・ウェリントンが僕の恋人。」


私の威勢が完全に消え去った後、ビル先輩は先ほどあの女に言った言葉を繰り返し、それから同じようにウインクをした。…そのウインク、話を合わせろということか。


「そうだよね?」と催促されれば、仕事で染み付いた精神のせいなのか、ノーとは答えられない。無駄にハンサムな顔に覗き込まれてドギマギしてしまうし。


どうしたらいいか分からなくなって俯けば、ビル先輩は大きな手でぐしゃぐしゃと私の頭を乱す。ドキドキと音を立てる鼓動はセクハラが嫌だから。ノーと言えなかったのは普段の仕事の上での関係のせい。ビル先輩に言い寄る人にイライラしたのは、大嫌いなあの女だったから。



絶対、絶対、このセクハラ上司に惚れてるとかではないですから!



(サラ・ウェリントン…またあなた私の恋の邪魔をするわけ?)
(記憶にないですけど。そっちこそ昔私の好きな人と付き合った)
(覚えてないわね。あんなヘタクソ男)
(覚えてるじゃない!尻軽女狐!)
(うるさいわね、おこちゃまたぬき!)


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