ブスとニキビ
「どうしようサラ…」
リドルが珍しく深刻そうな顔をしている。しかもわざわざアブラクサスに私を部屋まで呼び出すよう言いつけるし、今も口元に手なんか当てちゃって、すごくおおげさだ。
「今日はなに?鏡にうつった自分がかっこよすぎた?」
いつもなら、まあね僕は美しいから、とかなんとかいうナルシストがふるふると力なく首をふるんだから、こりゃ只事じゃないらしい。近寄って話を聞いてあげようと思ったのに、大きく後退りをされた。
「なに?感じ悪いなあ。」
ちょっとだけ面倒なのでため息をついてやると、リドルがぽそりと言った。
「…ニキビ。」
ニキビ?
これは私に対する暴言ではない。だって私ブスだけどニキビないし。一応肌くらいは綺麗でいようと頑張ってるもん。ということは、だ。
「…だから、ニキビができた。」
やはり、リドルにニキビができたみたいだ。だからなんだって言うんだ。普段は女全員が羨むようなつやつや肌をしてるんだから、たまにニキビの一つくらいできたってなんてことないじゃないか。
「ブスには分からないかもしれないけど、僕にとっては一大事なの。わかる?ニキビだよ?君みたいなブスには分からないかもしれないけど。」
イラッとしたので強引に彼の手を口元から剥がしとってみた。確かに、唇の上には赤い点がひとつ。それくらいならだれだってたまにはできるし、やっぱり別にいいじゃないかと思ってしまう。
でもリドルが困ってることなんて滅多にないから、もう少しからかってやろう。
「ねえリドル。口の周りにできるニキビの意味知ってる?」
マグルのどこの国だったか、そういうジンクスがあった気がする。そんなのを本で読んだ。ニヤニヤする私にリドルは急かすような視線を向けてくる。機嫌が悪いから、もったいぶってる場合じゃないな。
「実は、セックス運の下降なんだって。」
ジンクスとは言え、なんとハッピーなことか。正直、リドルは何かと迫ってくるし、若さゆえなのかありあまっていて疲れてしまう。だから例え根拠のない話とは言え、これでニキビがある間は萎えてくれるんじゃないかと思うと気分が良い。
「…は?」
うん、だけど怒らせた。
いや、これは怒っているというよりもあきれていると言った方が正しいか。だってこれでもかというくらい顔をしかめている。さすがに下品だったか、反省しよう。が、その後にニヤリと笑ったから呆れているとも違うのかもしれない。
「君はさ、僕がこの程度のもので君に欲情しないと思うわけ?」
やっぱり訂正。
呆れていない。どうやら彼のスイッチの切り替えをしたみたいだ。ああ、これはきっとアブラクサスによってはかられたものに違いない。どうせ私を部屋に呼び出してセックスでもさせてリドルの機嫌をなおそうっていう算段だ。アブラクサスめ、あとで覚えてろ!
いやいやちょっと待ってよ、と制止してみたけど彼は私に迫ってきて、ついには背中がクローゼットに衝突した。
「さっきのはちょっとした冗談だから落ち着いて!」
「もはや冗談かそうじゃないかなんて関係ないよ。君が言い出したんだから試そうよ。」
この人はセックスをするとき、決して私をむりやり押さえつけるようなことはしない。今みたいにゆっくりと、だけどギラついた瞳で私を見据えて動けなくするんだ。彼の瞳は不思議で、見つめられると縛られたみたいに動けなくなってしまう。
だんだんとリドルの顔が近づいてくる。静かに、まるで焦らすように。絶対にキスされるしこれはもう流れでセックスをしてしまうに違いない。なんだかんだ、私だってその気になってしまっているんだ。もう抵抗なんてしないで、目を閉じてリドルのキスを待ったが、一向にキスは降ってこない。
もしかして本当にニキビのおかげでセックス運が下降して、やる気が削がれたのではなかろうか。そう思って目を開ける。だけど、そんなことはなかった。すぐ目の前に美しい顔。目を開けたのとほぼ同時に、無表情だった彼の表情が緩んだ。
「目、開けててよ。君のそのブス顔が最高に欲情するんだから。」
リドルはそう言って私の唇に噛み付いた。
ジンクスなんて、この男の前じゃ無意味らしい。
(リドル機嫌はなおった?)
(まあね。上々さ。セックスしたら肌がきれいになるって言うしね。)
(それ女性ホルモンが増えてるんだよ)
(え?…ああ、うん、まあいいやなんでも。)
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