小説 | ナノ

「じゃあ、これが最後の質問」
「君は、これからどうしたい?」
蛹のあの醜さを私は知っている。草木に引っ付いて形の悪い緑の虫、それが日を追うごとに美しく育ち、蛹の殻を破れば綺麗な羽を舞い上がらせる蝶へと変わっていくのだ。標本にすればそれは美しさを失わず輝き続ける。羽だけを見て、中身は誰も見ない。でもきっと蝶の中身も綺麗なのだろう。

「……汚い、私を、消したい。綺麗に、なりたい」

目から涙が零れる。汚い私を隠すメイクが剥がれ落ちて一筋の汚い自分を、露出する。その涙が綺麗なものだったとしても、綺麗は汚くなりやすいから、結局私は汚いままなのだ。蛹のままきっと私は死んでしまった。ここで輝いていた蝶から、まだ姿の見えぬ蛹へと。そして、死んだ。

そんな私を、目の前のこの人は、居すぎた冷たい楽園から連れ出してくれそうな気がして、本心を溢してしまった。
答えは彼の口から開かれる。ただそれを自分は、待つしかない。カランとグラスに入っていた氷が下へと落ちて酒のなかへと溺れる。

「…じゃあ、俺と共に来るか?」

求めていた、答え。
逃げ出すという選択。

「俺らはこいつらとは違った汚さを持っているが、…ここよりはマシだと言えるだろう」

「どうする?」

その問いかけに頷いたら、きっと私は変われるのだろう。
それなら勿論と、頷くしかない。
そして私は桃源郷から、逃げ出した。
振り向けばあの頃の楽園は炎となり、灰へと消えていく。踊り狂う女性も、男性も全てを燃やして、消えてしまうのだ。
麻薬に溺れた者たちは愚かなことに我が身を燃やす炎に気付かず踊り続ける。
それはどこかで見た、死んでも幸せな世界を抽象するように美しく、そして、狂気を感じた。

何のために、なにをオカズに、なにをしていたのか。
脳からずっと考えてきたものがシュレッダーのように細かく刻まれ断片になってしまった。

これで良かったんだ。シーユー、アゲイン。私の楽園。桃源郷。そう、ぎこちない英語で燃え盛るフロアに別れを告げる。

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