私とお揃い

「絶叫マシン制覇っ」

「頑張ったねー。」

「よくそんなに元気でいられるな、お前ら……」

最後の絶叫マシンに乗り終わり、両手を突き上げた詩織。伊織はにこにこと笑いながら、詩織の乱れた髪の毛を手ぐしで整えてやっている。そんな二人に、稲葉は胃を押さえながら顔を歪めた。
あまり大きい遊園地ではないが、並んでいた時間もあり、日は大分傾いてきている。そろそろ潮時だろう。

「最後に観覧車行っとく?」

「っ、もう高いところはやめてくれっ!」

「えー。姫子の意気地無しっ
じゃあお土産物見に行こう!お兄ちゃんとお姉ちゃんに頼まれてるんだ。」

伊織の提案に両手を挙げて拒否をする稲葉。詩織はそれに頬を膨らませたが、すぐに笑顔を取り戻し、稲葉の手を引いた。半ば引きずられるようにして歩く稲葉の後ろを着いていく伊織。
今日一日で、随分詩織と打ち解けられたようで、詩織は、伊織と話すときに赤面しないようになっていた。だが、やっぱり詩織の中の一番は不動の稲葉なのだろう。そう思い、伊織は一人小さく笑った。

「お兄ちゃんはお菓子がいいって言ってた。」

「お前の兄貴甘党だからな。」

「お姉ちゃんは何でもいいって。
姫子選んでっ」

「何でアタシなんだよ……」

土産物屋につくと、詩織は兄弟への土産を物色し始めた。もちろん稲葉も道連れだ。手持ち無沙汰な伊織はぐるりと店内を見渡しながら、詩織たちの後を着いていく。
ふと目についたのはこの遊園地のマスコットキャラクターの耳がついたカチューシャだ。それを手に取り、迷わず詩織の頭にはめた。

「わっ、何これ……
わぁっ、耳が着いてる!
見てみて姫子!耳増えた! 」

「お前、もう少しマシな反応はないのか。」

「詩織かわいいっ!」

頭を押さえ、キラキラと目を輝かせながら、だがどこか論点のずれた感想に稲葉は呆れた様子で詩織のおでこを叩いた。
むっとした詩織は、同じものをもう一つ手に取ると、それを伊織に渡す。「伊織ちゃんもつけて!」と言われれば断ることも出来ず、伊織はそのカチューシャを身に付けた。
それを見て嬉しそうに微笑むと、詩織は伊織にきゅっと抱きつく。

「伊織ちゃんお揃いっ
姫子意地悪するから仲間外れー」

「な……っ
詩織の分際で生意気なことを……」

「……っ、稲葉ん、詩織頂戴っ」

「やらん。」

べっと舌を突き出した詩織にむっとしながら、伊織の願いを、さながら父親のごとく一刀両断する稲葉。
伊織は始めて詩織から抱きついてきたことに少しの感動を覚えた。
さすがに買いもしない店の商品を持って回るわけにもいかないので、そのカチューシャはすぐに売り場に戻されたが、詩織はどこか残念そうにそれを見つめていた。

「これが欲しいの?」

伊織が尋ねれば、詩織はふるふると首を振った。ではどうしてそんな表情をするのか。記憶を遡ると、そういえばこれを着けて「お揃いっ」と嬉しそうにしていた気がする。もしかして詩織は、三人お揃いのものが欲しいのではないだろうか。

「せっかくだし、ストラップでも買う?三人でお揃いにして。」

そう提案すれば、詩織は瞳を輝かせた。どうやら伊織の予想は当たったようだ。稲葉も、と振り返れば、稲葉は腕を組んでふいと顔を逸らした。

「アタシは仲間外れなんだろ?」

その言葉に、詩織の表情が曇っていく。ストラップ売り場に行きたそうに足踏みをして、おずおずと稲葉を見上げる詩織に、稲葉は自分の口元が緩んでいくのを感じた。

「詩織が言ったんだ。
アタシは放っておいて、伊織とお揃いにすればいいだろ?」

「……」

もごもごと詩織の口が動いた。あと少しだ。稲葉はしゅんとする##NAME1##に、顔を近づける。

「ごめんなさいは?」

「……ごめんなさい。」

詩織の謝罪の言葉を聞いて、稲葉は満足そうに微笑んだ。律儀にあやまっちゃうんだ。と伊織は思わず吹き出した。まるで親子のようなやりとりだ。それを合図に待てをようやく解除された犬のように、詩織はストラップ売り場に走っていった。伊織と二人きりになった稲葉は、意地の悪い笑顔を浮かべて詩織を指差した。

「たまにあぁやって遊ぶんだ。
面白いだろ?」

「……かなり。」

クスクスと笑いながら、詩織のところに向かう。真剣な面持ちでストラップを選ぶ詩織は、二つのうちのどちらかで迷っているようだ。「どっちがいい?」とつき出されたストラップを暫く眺めた二人は、「こっち」とお互いに違う方を指差した。

「あらら、別れちゃったね。」

「いや、普通に考えてこっちだろ。」

「えー、こっちの方がかわいいよっ」

「そんなチャラチャラしたやつをアタシがつけてたら笑い者だろうが。」

「あー、稲葉ん自己中発言。そんなこと言ったらそっちは詩織にもあたしにも合わないよ。」

「そっちだってアタシにも詩織にも合わな……」

「喧嘩両成ばーいっ!」

ずびっと二人の間に割り込んできた詩織に、二人は目をしばたいた。何故かキリリと顔を引き締めた詩織は、ばっとてを広げ、

「じゃーんけーん、」

音頭を取り始めた。稲葉と伊織は慌てて拳を振りかざす。

「ぽんっ!」




「稲葉んには敵わないなぁ。」

「たかがじゃんけんだろ。」

結局じゃんけんに勝利したのは稲葉だった。電車のなかで、三人お揃いのストラップにご満悦の様子の詩織は、携帯にぶら下がるそれをにこにこと眺めている。
ため息混じりに呟かれたことばに、稲葉は呆れたように返した。だが、伊織は「チッチッ」と舌をならして人差し指を振る。

「まぁそれもあるんだけど、それだけじゃないんだな。」

「どういう意味だ?」

「詩織、あの迷ってた二つのストラップって、片方があたしで、もう片方が稲葉んが好きそうだなって思ったやつでしょ?」

伊織の問いに、詩織は少し目を見開いたあと、小さく頷いた。それを見た稲葉は、納得したように携帯についたストラップを掲げる。

「どうりで詩織の好きそうなやつじゃないと思ったんだ。」

「そんなところで勝っちゃう稲葉んには、詩織関連のことでは敵いませんわ。ってことー。」

「そうとは限らないだろ。現に今だってお前の方が先にこのストラップの……」

詩織の異変に気がついた稲葉は、言葉を途切れさせた。うとうとと船をこぐ詩織は、今にも眠ってしまいそうだ。稲葉の「眠いのか?」という問いにも、「うーん、」と曖昧な返事が返ってくる。
稲葉は小さくため息をつくと、いつも驚くほど綺麗な姿勢を崩し、わずかに肩の位置を下げた。「ほら、」と稲葉が合図をすると、詩織はその肩に身を預け、あっという間にすやすやと眠ってしまった。

「ったく、高一にもなって燃料ゼロになるまで動くやつがあるか。」

「詩織かわいいー
あと稲葉ん姿勢悪いー。ちょっとだけど。
これ写真撮りたいな。」

「やめろ。」

それきり、しばらくの沈黙になった。お互い詩織を起こさないようにという気配りなのか、それとも話題がないだけなのかよくわからない。
だが、もう少しで降りる駅に到着するそのとき、伊織が小さく尋ねた。

「ねぇ、あたし今日で詩織と仲良くなれたかな?」

ぼんやりと外を眺めていた稲葉は、視線をゆっくりと伊織に向け、微笑んだ。

「あぁ、詩織が自分から抱きついた友達は私以外にお前が始めてだよ。」

その言葉に、伊織は嬉しそうに微笑んだ。「稲葉ん寂しい?」と挑発するように聞いてみれば、「少し寂しい。」と予想外の返事が返ってきて、伊織はぱちくりと目をしばたいた。
てっきり否定されるとばかり思っていたのに。

「まったく……、あんたたちは一生そうやってラブラブしてなさい。」

「あぁ。」

「っ、もう!
調子狂うなぁっ」

そう言いながら、伊織はどこか嬉しそうに稲葉と詩織を眺めた。ほんとうにこの二人は、どこまで一緒にいるのだろう。
そう思いながら、ストラップのついた携帯を握りしめた。




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