私とお誕生日

最初に注意させていただきます。
この回はオリキャラである詩織の兄がでしゃばります。
ご了承ください。
それを踏まえた上で、お読みください。







「詩織の誕生日?」

「あぁ。」

文研部員を目の前にして、稲葉はホワイトボードにでかでかと「誕生日パーティー」と書き出した。
あの容姿の詩織も、一週間後には16歳になるという。一気に4人も友達が出来たことなど、初めてと言っても過言ではない。そんな詩織だから、大勢で行う誕生日パーティーはしたことがなかった。

「ということで、お前らにも参加してほしいんだ。」

「するするっ」

真っ先に賛成を表したのは伊織だった。それに続いて、太一、唯、青木も頷く。全員参加の結果に、稲葉は満足げに笑った。

「パーティーってどこでやるんだ?」

「あぁ、詩織の家だ。家族ぐるみの企画だからな。
安心しろ。詩織の兄は何かしら理由をつけて出掛けてもらう。」

「?、お兄さんが居たらまずいことでもあるの?」

唯の問いに、稲葉は「言ってなかったか?」と顎に手を添える。
詩織には兄と姉がいる。二人とも詩織を溺愛しており、中でもやっかいなのが兄だった。おっとりとして誰にでも優しい姉に対して、兄の方は詩織に近づく男、詩織をいじめる輩にはとことん厳しかった。そんな兄が、青木や太一というれっきとした男が詩織の部屋に入るとわかればどうなるか。

「半殺しじゃすまされないだろうな。
まぁ、大丈夫だ。居ないはずだから。」

「そ、そのへん頼むよ稲葉っちゃん……」

「あぁ。
で、当日までにしておきたいことなんだが……」

兄の説明を聞いて顔を青くする青木と太一を尻目に、まったくの他人事である稲葉はこれからの準備の説明を始めた。

かくして行われることとなった詩織の誕生日パーティー。パーティーの参加者は、詩織には内緒だ。基本的に鈍い詩織を騙すことは容易く、ボロが出かけても無事バレることなく当日を迎えることとなった。
パーティー会場は詩織の部屋。伊織と唯は部屋の装飾、太一と青木はプレゼントの買い出し、そして稲葉は、その2つが完了するまで詩織を家に帰らせないよう足止めをする係りとなった。

「今日はお母さんがケーキ作ってくれるって!」

「よかったな。
お前ももう16か……。見えないな。」

「もー、姫子うるさいっ」

自分の誕生日を忘れるなんてことは絶対にありえなく、毎年必ず家族と稲葉に誕生日を祝ってもらっていた詩織には、パーティー自体をサプライズにすることはできなかった。だからせめて、と参加者でのサプライズ企画を提案した稲葉。それは、詩織の母にとってもサプライズだったらしく、伊織たちが来ると知らせた時には目を丸くしていたが、すぐにその顔を綻ばせ、腕によりをかけて料理を作ると張り切っていた。

「ケーキあるし、早く帰ろうっ」

「悪い詩織。
シャーペンの芯がなくなったんだ。買いにいくの、付き合ってくれないか?」

「えー!」

その母のためにも、サプライズを成功させなくてはならない。稲葉は自分の役割を果たすべく、詩織を誘った。あからさまに嫌そうな顔をする詩織だったが、渋々足を家とは反対の方向に向ける。

「仕方ないなぁ。早くね。」

「あぁ。わかった。」

そう返事をしたものの、早くするつもりなんて毛頭ないのだが。
その時、稲葉の携帯が震えた。見てみると、どうやら青木からのようだ。詩織が間違えても携帯を覗き見ないように確認してから、稲葉はそのメールを開けた。
そこには、「プレゼント購入完了っ」という文字と、律儀にプレゼントの写真まで貼り付けてある。プレゼントは、伊織と唯と稲葉で店という店を練り歩き、目星を着けてきたものだ。プレゼントの中身が間違いないことを確認して、稲葉は「ご苦労だった」とだけ素早く返信をした。

「姫子早くー!」

「あぁ。今行く!」

一人で先に行ってしまっている詩織に追い付くため、稲葉は少し歩調を速めた。
一番近くの雑貨屋に入り、シャーペンの芯を手に取る。さすがにこれだけでは時間稼ぎにならないと、修正テープが、ノートが、と理由をつけ、出来る限り長居するよう促した。最終的には詩織も自分のものを見始め、十分な時間が取れた。その間に伊織から装飾完了メールが届き、二人はようやく家に向かって歩き始めた。

「遅くなっちゃった……。ケーキ大丈夫かなぁ。」

「大丈夫だろ。これくらいなら。」

「でも急ごうっ!」

「わかったわかった」

たっと駆け出した詩織につられて、走るとまではいかないものの、歩調を速める稲葉。それでもまだ詩織の理想には足りないらしく、「もっと速く!」と急かされる。

「ひーめーこー!」

「そんなに急がなくても、ケーキは逃げないだろ!」

「お兄ちゃんが食べちゃうかもしれない!」

「今日はお前の兄貴はいないだろ。」

「いるよ!さっきメール来たもん!」

「……は?」

そんなことはないはずだ。と、詩織の携帯に届いたメールを見る。だがそこには確かに「なんとか早く帰れそうだ!お兄ちゃんより早く帰ってこないとケーキ食べちゃうぞー!」と書かれていた。
これは本当なのか。冗談でいっているだけなのか。混乱しながらも稲葉は慌てて携帯を取り出した。

「少し用事を思い出した。
お前は先に帰ってろ!」

「あ、姫子!」

太一と青木に知らせなければ。もしもう家にいるようであれば至急隠れろと。いないのであればまだ行くなと。
急いで電話をかければ、何も事情を知らない青木の飄々とした声が聞こえ、稲葉は声を荒くした。

「お前ら今何処にいる?!」

「え?」

電話を受け取った青木と太一は、今まさに、詩織の家の前にいた。それを伝えると、稲葉は「今すぐどこかに隠れるかその場から離れろ!」と言う。訳がわからず、青木は太一と目を会わせ首をかしげた。

「いいから早く!
詩織の兄貴が……」

帰ってくる。そう言うが早いか、青木と太一の後ろで一台の車が止まった。そこから出てきた男は、青木と太一を見て首をかしげる。好青年そうな彼は、人懐っこい笑顔を浮かべながら二人に近づいた。

「俺んちになんか用か?」

「え、いや、あの……」

彼はもしかして、詩織のお兄さんなのだろうか。随分とイメージと違うじゃないか。まるで年の近い先輩のような雰囲気の彼に、青木と太一はほっと息を吐き出した。稲葉が話を盛りすぎたのだろう。そう思って、ここに来た理由を話そうとしたその時、詩織の兄の目が鋭くなった。

「それ、何?」

「あ、これは天草の誕生日プレゼントで……」

「誕生日プレゼントだぁ?まさかお前ら、詩織に会いに来たのか?」

だがそこに詩織が絡んだ途端、空気が一転した。まるでどこかのチンピラ、否、それ以上の殺気に、ぴんと背筋を伸ばした青木と太一は、答え方を間違えれば殺される気さえした。だが、答えないという選択肢もない。蛇に睨まれた蛙。まさにその通りの状況に、どうすることも出来ず狼狽える。

「返事は?」

「お、俺たちは、その……」

何て言えばいいんだ。わかんねぇよ。と目で会話をしながら、とにかく助けを待つべく時間を稼ぐ。このまま居れば、必ず稲葉は助けに来てくれる。その時に自分達の命があるかどうかはわからないが。
その時だ。突然の衝撃に兄がふらついた。睨みから解放された青木と太一は全身の力が抜けていくのを感じた。だが一体何が起こったのか。見てみると、兄の腰にはしっかりと詩織が抱きついていた。

「ねぇお兄ちゃん!
セーフ?詩織セーフ?一緒に家に入ったらセーフだよね!だからケーキ食べちゃダメだよ!」

「詩織ー!あぁ、セーフだぞー!
一緒にケーキ食べようなー?」

「お兄ちゃんいっぱい食べるから詩織が食べてから!」

「えー!つれないこと言うなよ詩織ー!」

何なんだこの光景は。青木と太一はポカンとその兄弟のやりとりを見つめた。でれでれと満面の笑みを浮かべながら詩織を可愛がる兄に、詩織も嫌がることをせず嬉しそうに笑っている。これが、天草家なのか……。と半ば呆然としていると、兄がハッとしたように青木と太一を見た。

「詩織!
こいつらは誰なんだ?!彼氏か?!彼氏じゃないよな?!」

「え?」

キョトンとして青木と太一を見る詩織。太一は慌てて持っていた誕生日プレゼントを背に隠した。

「あれ、八重樫くんと青木くん、なんでいるの?」

「い、いや、これはその……あれだ。」

どれだ。思わず自分でツッコミを入れながら、太一は視線をさ迷わせた。青木もいい言い回しが思い浮かばないようで、微妙な笑顔を浮かべたまま固まっている。このままではサプライズにならない。
純粋に自分達がここにいる理由を知りたがっている詩織と、詩織がいなければ今にも襲いかかってきそうな兄の目を受け、太一もあとの言葉が続かない。心の底から、稲葉の登場を求めた。

「何やってんだお前ら。」

「い、稲葉!」

「稲葉っちゃーん!」

心の叫びが通じたのか、ついに稲葉が現れた。平然を装ってはいるが、急いできたのだろう。心なしか息が乱れている。

「姫子ちゃん!こいつらと詩織の関係は何なんだ?!」

「名前で呼ぶな。
友達だ。それ以上でもそれ以下でもない。」

「本当か?!」

「本当だ。
それよりお前ら、忘れ物取りに来たんじゃなかったのか?」

忘れ物?と太一と青木は顔を見合わせる。だがすぐにそれが稲葉の演技だと気づいた。咄嗟に話を合わせるため首を縦に振る。

「そ、そうなんだ。忘れ物を取りに……」

「忘れ物……?ってことは、こいつら詩織の部屋に入ったのか?!」

「あのね、青木くんはまだだけど八重樫くんはこの前……むぐっ」

「あ、アタシが間違えて太一の物を持って帰ったんだ。
それを詩織の部屋に忘れたから取りに来たんだ。な?」

「あ、あぁ。そうそう。」

危うく太一のお見舞いの事実が飛び出すところだった。慌てて詩織の口を押さえ、稲葉は言い訳をひねり出す。青木と太一はただひたすらそれに便乗するだけで精一杯だった。
だが、いぶかしむ兄はまだ納得がいかないようだ。このままではバレる。そう判断した稲葉はいよいよ焦りが沸点に達し、ブチりと何かが切れた。

「でもそれなら姫子ちゃんが取りに来ればよくね!?
それにそういうのは忘れ物って言わな……」

「あーもー!どうでもいいだろ!
とりあえず中に入れ!早く!
あと名前で呼ぶな!」

四人の背中をぐいと押し、家の中に押し込む。キョトンとする詩織と、抗議する兄を放置して、稲葉は青木と太一を連れて詩織の部屋へ向かった。
一応伊織たちが勘違いをしてしまわないようにノックをして、「アタシだ。」と断りを入れてから部屋に入った。

「遅い!」

「悪い。いろいろあったんだ。ちょっと後始末してくるから、もう少し待っててくれ。」

三人の遅れを怒ろうとした唯と伊織だったが、あまりに稲葉が余裕なく言うものだから、思わず閉口した。
稲葉が出ていき、残された四人。「何があったの?」という伊織の問に、青木と太一は苦笑するのみで何も言えなかった。

慌てて詩織の元へ戻った稲葉だったが、そこには兄はもういなかった。どうやら家にいた姉が、気をきかせて連れていってくれたらしい。ほっと息をついて、バタバタと忙しい光景にポカンとする詩織に呼び掛けた。

「とりあえず、鞄置いてこい。」

「うん」

こくりと頷いて自分の部屋に向かう詩織に、稲葉はいつのまにか入っていた体の力を抜いた。
これで自分の役目は終わった。後は楽しむのみだ。
詩織の後をついていきながら、稲葉はあらかじめ隠し持っていたクラッカーを用意する。

「ケーキっ、ケーキっ」

「お前ホントにケーキ好きだな。」

少し声を大きくして、詩織の部屋にいる四人に、詩織が来たことを伝える。
詩織がドアに手をかけた。ドアノブを回し、ドアが開く。それと同時に5つのクラッカーが大きな音をたてた。

「誕生日おめでとう!」

五人の声が重なった。ポカンとする詩織の頭に三角帽子が乗せられる。突っ立っている詩織の背中を押し、稲葉は詩織を部屋の中に入れた。クラッカーの音を聞いた詩織の母が、いつもより大きなケーキを運んでくる。たくさんの料理と、たくさんの人に、詩織はただただ驚いていた。

「なんで?何で皆いるの?」

「詩織の誕生パーティーしに来たんだよ。」

「何で知ってるの?」

「アタシが教えたんだ。
詩織の友達を呼んでパーティーしようと思ってな。」

ようやく、パァッと詩織の顔が輝いた。稲葉以外の友達がいる誕生日パーティーは、初めてだった。
皆で誕生日の歌を歌って、ろうそくの火を消す。詩織の母お手製のケーキと料理をたくさん食べた後、プレゼントが贈られた。

「はいこれ。
あたしと唯と稲葉んで選んだプレゼント。買い出し係りは青木と太一だよ。」

「わぁ、ありがとう!
開けてもいい?」

いいよ。と言われ、詩織はプレゼントの包みをといた。
中から出てきたのは、写真たてと目覚まし時計、そしてヘアゴムだった。

「目覚まし時計は自分で起きろって意味だからな。
もう16歳だろ。」

「うっ……頑張ります。」

目覚まし時計を見つめ、苦い顔をする詩織。朝は苦手だった。
目覚まし時計はベッドに置かれ、さっそくもらったゴムで髪を結わいた。

「似合う似合う!」

「詩織かわいいっ」

皆に誉めてもらい、嬉しそうに笑う詩織。最後に写真たてに手を伸ばした。

「皆で写真撮ろうっ!」

「え、今から?」

「今から!」

お母さーん!と詩織はさっそく部屋を飛び出し、カメラを持つ母を連れて帰ってきた。
お世辞にも広いとは言えない部屋で、ぎゅうぎゅうにつめながらカメラを見つめる。

「はい、チーズ」

パシャリと音をたて、カメラのフラッシュが光った。皆でバック画面を覗き込んで、各々の反応を見せる。その間、詩織は終始笑顔を浮かべていた。

写真も撮り終わり、とうとうパーティーはお開きとなった。皆が帰って、部屋には稲葉と詩織の二人きりになる。食器の片付けをしながら、稲葉はポツリと詩織に話しかけた。

「楽しかったか?」

「うんっ」

大きく頷いた詩織に、稲葉は微笑んだ。
そして、鞄の中から1つの包みを取りだし、詩織に差し出す。小首を傾げる詩織に、稲葉は「誕生日プレゼントだ」と言った。

「もう一個?」

「あれは皆からだろ。
これはアタシからだ。」

開けてみると、入っていたのはキーホルダーだった。大きな人形がついたそれを、もうひとつ、稲葉は鞄から取り出す。

「お揃いだからな。なくすなよ。」

「!、うんっ
姫子大好き!」

そのキーホルダーは、今日寄った雑貨屋で詩織が物欲しそうに見ていた物だった。それに気づいた稲葉はこっそりそのキーホルダーを買っていたのだ。
きつく抱きついてきた詩織を受けとめる。そのキーホルダーは、お互いのスクールバッグにつけられた。

「今までで一番楽しかったなぁ」

「それはよかったな。」

プレゼントをしげしげと眺めながら、詩織は言う。

「友達できてよかった。
ありがとう姫子!」

「何でアタシにお礼なんか言うんだよ。
友達を作ったのはお前だろ。」

「だって、姫子がいなかったら私きっと誰も友達いないと思う。」

そんなことないだろ。と笑う稲葉に、詩織はあるよ!と力強く言う。
その事に少し驚きながら、だが感謝されるのは悪くないか。と思い直し、稲葉は素直にその言葉を受け入れた。
詩織はとにかく嬉しそうで、鏡に写る自分を見れば、ヘアゴムに触れてニッと笑う。

「あとね、友達が伊織ちゃんたちでよかったとも思う。
姫子の友達だし、いい人だし。
私、伊織ちゃんも唯ちゃんも八重樫くんも青木くんも大好き!」

「そうか。」

「あ、でもこれは皆には内緒なんだけどね、」

突然声を潜めた詩織は、ちょいちょいと稲葉に手招きした。誘われるがまま、稲葉は詩織に近づき耳を寄せる。

「姫子が一番大好きっ」

「!、お前なぁ……っ」

このやろう!と稲葉は詩織に抱きつき、その勢いでベッドに押し倒した。ベッドの上でバタバタと戯れながら、詩織の頭をぐりぐりと撫でる。詩織はケタケタと笑って、その行為から逃れようとするが、稲葉は離そうとはしなかった。

「あははっ姫子制服ぐちゃぐちゃになっちゃうよー!」

「そんなの後でアイロンかければなんとかなるだろ!」

「そっか!じゃあいいや!」

結局その戯れはドタバタと煩い二人を注意しに兄がやってくるまで続けられた。ドアを開ければベッドの上で抱き合っている二人の光景に、兄は石のように固まる。
「いくら姫子ちゃんでも許せない!」と悲しむ兄を、稲葉は普段なら冷たくあしらうところなのだが、今日はぎゅっと詩織に抱きついて見せ、挑発してやった。

「あー!い、言っとくけどお前らは女の子同士なんだからなっ!」

「言っとくがお前と詩織は兄弟だからな。」

「っ、くそー!詩織ー!お兄ちゃんの所にもおいでー!」

両手を広げて詩織を待ち構える兄だったが、詩織はうーん、と悩む素振りを見せて行こうとしない。それだけでもショックを受けたであろう兄に、稲葉は追い討ちをかけるように詩織に質問した。

「なぁ詩織、アタシとお前の兄、どっちの方が好きだ?」

「姫子!」

「即答?!」

母さん詩織が反抗期!と出ていった兄を、稲葉と詩織は笑いながら見送った。

こうして終わった詩織の誕生日。もらったヘアゴムは次の日から使われ、写真たてにもすぐに今日撮った写真が入れられた。キーホルダーは鞄に付けられ、母や姉に見せて喜んでいた詩織だったのだが、ただひとつ、役割を果たせないプレゼントがあった。

「詩織!
それだけ目覚まし鳴ってなんで起きないんだよ!」

「んぅ……あれ、姫子……」

「起きろ!
まさかと思って来てみたらお前は……!」

「まだ大丈夫だよぉ……」

「目覚ましの意味がないだろうが!」

布団をひっぺがされ、詩織は目を擦りながら起き上がった。ようやくじりじりとうるさい目覚ましが止められる。「おはよう姫子」と気の抜けた挨拶をされ、稲葉はため息をついた。

「んー……っ、よく寝た!」

「まったく……いい加減一人で起きろ。」

「姫子が起こしに来てくれるからいいもーん。
一緒にご飯食べよ!」

「それじゃあ今までと変わってないだろ……」

そう言いながらも、いつもと変わらない生活を望んでいる自分がいることに、稲葉は気づいていた。そして詩織も、これから自分で起きる努力はしないつもりなのだろう。
詩織に手を引かれ、温かい朝食が並べられているリビングへ向かいながら、稲葉は苦笑した。




****
ありがとうございました。
これにて一部を終了させていただきます。
次は二部の連載に入ります。続編ですが、少し話の傾向が変わります。お楽しみに。
そして最後にもう一度、オリキャラをでしゃばらせてしまい申し訳ありませんでした。
それでは、第二部でお会いしましょう。








×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -