聞けば、せいは俺のご飯を作らせるために地球から拉致してきたんだってさ。全然知らなかったな。そんな彼女に移動の話が来たらしい。なんか上のおっさん達、せいの作る料理気に入っちゃったんだって。はてさてどうしてくれようか。





団長とお世話係
第六話





あれから、包丁の使い方を教えてほしいとのことで、俺はせいと厨房にこもることが多くなった。何回もジャガイモを剥き、何回もニンジンを刻み、何故だか俺の方がさらに包丁使いが上手くなった。でも、相変わらずせいは下手っぴだ。

「なんで上達しないんだろね」
「…すみません」
「まぁ、最終的に美味しいもの作れるんだからいいと思うけどね」
「…」

せいは厨房にいる間、ずっとずーっと俺の手元を凝視した。目は合わせれないくせに、手はこれでもかというほどに凝視した。少し作業しづらい。というか、まさか自分の手に嫉妬したなんて口が裂けても言えない。

「ところでさ」
「何ですか?」
「移動の話がきたらしいね」
「はい」
「…」
「…」
「…どうするの?」
「分からないです。阿伏兎さんが行けって言ったら行くし、ここにいろって言われたらそのままです」
「…ふーん」

表情を変えずにそう言うせいを見て、少しだけ面白くないなと思う。ニンジンが可哀相な形に切り刻まれている。

「せいはさ」
「はい」
「拉致されてきたらしいね」
「…そうですよ」

せいの表情は変わらない。

「嫌だった?」

そう問うと、不思議そうにこちらを見る。

「…どうしたんですか?」
「ん?いやちょっと訊いてみただけ」
「…そうですか」

ニンジンを切り終わった次は玉ねぎに手を伸ばす。

「春雨で働くの嫌じゃないの?」
「最初は嫌でしたよ」
「…そうなんだ」
「はい、でも、阿伏兎さんがいろいろ気を使ってくれたし」
「…」
「殺されるよりは、働いて生きていたいかなって」
「…ふーん」
「もう今は慣れました」

瞳には諦めが鈍く光る。今まで見たことのないような大人びた眼差しだった。

「てことはさ、せいはここでの仕事楽しくないんだね」

面白くなくて吐き出された言葉。せいは包丁を止める。

「…楽しくないことないですよ?」

なんでそんなこと訊くの?という顔をしている。俺は少しだけ不思議に思って、

「地球に帰りたくないの?」

そう言うと、

「んー」

考えるように手元を見る。そして、

「帰りたくないって言ったら嘘になりますけど、」

少し笑ったかと思えば、

「…まだここにいたいとも思います」

そう言った。自然と口元が緩んだ。

「ふーん」
「…犯罪組織っていうのは受け入れ辛いんですけど、ここってけっこう楽しい所ですよね」
「そう?あんま強い奴いない気がするけどね」
「…わたしと団長じゃあ、楽しいの中身が全然違いますね」
「ああ、そうかもね」
「ふふ」

せいはまた玉ねぎを刻みだした。相変わらず手つきは危なっかしい。

「せいの楽しいはどんなことだい?」
「お洗濯とかお掃除、あと料理も好きです」
「へー、物好きなやつもいたもんだ」
「まぁ、得意かって訊かれたらそうでもないんですけどね」
「確かにね」
「はは…でも最近は特に楽しいです」
「何で?」
「何でって、団長が話しかけてくれるからですよ」
「は?」
「お洗濯したり、お掃除すると、ありがとうって最近言ってくれるから、やり甲斐倍増です」
「…」
「わたしの名前、訊いてもらえた時、実はちょっと嬉しかったんですよねー」

ニコニコと玉ねぎを刻んでいる。そこに媚びの色はない。素直すぎるのも考えものだと思った。ふいをつかれた。
俺もせいのように素直になれたなら、移動せずにここにいて欲しいって言えたのだろうか。





20111013

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