恋観察日記 | ナノ



一週間最後の登校日は、親に心配されてしまって休むことになった。
土曜日の部活も、大丈夫だと言ったけれど及川さん達に止められてしまった。
日曜日は行かせてほしい、と言うと最初は止められたけれど強く希望するとなんとか許可を貰えた。


「いってきます」
「本当に大丈夫?部活行く前に待ちぶせさせられたりとか…」
「大丈夫だよ」
「お父さんがボディガードしようか…?」
「大丈夫、いってきます」

笑って家を出る。2日ぶりの学校への道のりは、なんだか新鮮に感じた。
途中国見くんに会った。目を丸くして驚いた後、大丈夫なのかよと聞かれる。
うん、と頷くと何か言いたそうにした後結局何も言うことはなかった。

体育館につくと、及川さんを始めいろんな人達に心配されてしまった。

うちの大事なマネージャーに手をかけるなんていい度胸だ、と先輩が言った。
跡は残らないのか、痛くないのか、ひたすら心配された。
監督にもたくさん心配されて、その日は重い物を持つことはなかった。


たくさん心配されて、たくさん甘やかされた。
なんだかくすぶったくて、ふわふわとした気持ちが胸の中でざわつく。

及川さんは、迷惑をかけてないって言ってくれた。証明してくれた。
あの人達の言うことは違っていた。

…あれ?

「…私、なんで呼び出されたんだろう…」
「…は?」

ふと思ったことをつい口にしてしまい、隣で休憩という名のサボりをしていた国見くんが素っ頓狂な声をあげた。
このまま聞き逃してくれたらよかったのに、続きを言えというような目で見られ、言葉を詰まらせながらゆっくり口を開いた。


「及川さんが私の事迷惑だと思ってる、って…伝えに来てくれたのかと…」
「…本気で言ってんの?」
「え?うん…でも及川さんに迷惑かけてないって、及川さんが教えてくれて……も、もしかしてマネージャーうまくできてない?」
「それはないから」
「あ、あり…が、とう」

これってもしかして、褒められた?なんだか嬉しくてふにゃりと表情を崩すと、笑ってる場合じゃないと頭を叩かれた。
べしっという音がした割にはそこまで痛くなかった。手加減されてる。


「コラァ国見ちゃん!何なまえちゃん叩いてるの!」

どこから見ていたのか、すぐに及川さんからの怒声が届き、ずかずかとこちらへやって来た。
あと何サボってんの!と続いた言葉に国見くんが小さく舌打ちしたのを聞いてしまった。


「みょうじ、なんで呼び出されたかわかってなかったんです」
「…え?」
「迷惑かけててマネージャーうまくできてないって教えに来たと思ってますよ、この脳内花畑人間」
「そ、それって私のこと…?」
「他に誰がいんの」

そこまでのんびりしているのかな。及川さんは瞬きをした後、ため息をつきながら片手で顔を覆った。


「…なまえちゃんよく変な男に騙されなかったね…」
「影山じゃないですか。みょうじ、変な噂あったからあまり近づく奴いなかったですし」
「あー絶対それだー」


…何の話をしているんだろう。キャッチセールスにひっかからないかって話かな?
訪問販売はお母さんが追い払ってますと言うと、そうじゃないと声を揃えた二人に突っ込まれてしまった。


「あー…みょうじ、及川さん人気じゃん」
「?そうだね…部活中、応援すごいね」
「好きな人の側に知らない奴が仲良さそうにしてたらどう思う?」
「えっと…仲良いんだな、って…」
「違う!嫉妬だろそこは!!」
「あいたッ!」

また軽く頭を叩かれ、今度は国見くんまで顔を覆ってため息をついてしまった。
手加減はしているんだろうけど、今度のは結構痛かった。無言で叩かれたところを抑えていると、顔を覆ったままの及川さんに頭を撫でられた。


「俺、みょうじと会うまで気が強くてわがままな影山そっくりな奴だと思ってた」
「えっと…?」
「正反対じゃん」
「そ、そうなの…?」
「ぼっけーってした天然記念物じゃん」
「私、人なんだけど…」
「うるさい天然記念物」

う"っと言葉に詰まると、及川さんは震えた声で「なまえちゃん、知らない人についていったらダメだよ」と言った。
私、子供じゃないんだけどな…。



***



空になったボトルを洗いに行こうとすると、誰か付き添いをと監督に言われ、サボりたかったらしい国見くんが来ることになった。
及川さんが来ようとしたけれど、岩泉先輩にキャプテンだろと叩かれて泣く泣く見送りをされた。
…ボトル、洗うだけなんだけどなぁ。

「…俺、手伝うけどゆっくり洗えよ。早く戻りたくない」
「は、はーい」

国見くんの言うとおりゆっくり洗ったけれど、二人でやったから早くに終わってしまった。
はー、戻るか、とカゴを奪われて戻ろうとした時どこからか名前を呼ばれた。

呼ばれてるぞ、と国見くんに言われて気のせいではないことに気づいて振り向くと、見覚えのある人がカメラを片手に私に手を振っていた。
少し離れた場所にいたその人はこちらへ笑顔で駆け寄ってきた。

「あ!写真部の…」
「斉藤紫苑!紫苑でいいよ、なまえ」
「し、紫苑…くん」

勢いに押されて名前を呼ぶと、にかっと爽やかに紫苑くんは笑った。

「何々、ボトル洗うの?」
「ううん、もう終わったの」
「そっか」

じーーー。笑顔でじっと見つめられ、どうしたらいいかわからずに見つめ返す。
少しした後、紫苑くんは頭を垂らして残念そうにしていた。

「やっぱ覚えてないかー」
「…へ?」
「いーや!なんでもない!無理すんなよなまえ、じゃーな!」

意味深な言葉を残して去って行った紫苑くんの後ろ姿を見ながら呆然としていた。
国見くんに、誰?と聞かれ、写真部の斉藤紫苑くんと答える。
知り合い?と聞かれ、数回話したのは知り合いに入るのか悩みだす。
すると私の反応を見た国見くんは顔見知りか、と判断した。

「…あいつ、何撮ってたんだ」
「?…風景、じゃないかな」
「みょうじの意見はいいんだっての天然記念物」
「く、国見くんそれって罵倒してる…?」




:)15.07.27