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父の死はひどく突然で理不尽だった。事故死だったのだ。相手が悪いわけでなければ父が悪いわけではない。偶然の要因が小さく重なった事故だった。
確かに父は要に愛情を最大限に注ぎ、育ててくれた。しかし、父が理不尽な死を遂げた今、要は相手を憎むことも、ましてや憤ることも、憐れむこともできなかった。
父へ、同じだけの愛情を返せれるとは思わなかった。どこか心の底で義務だと感じている部分があったのだ。無性愛者だから、というのは言い訳に過ぎないかもしれない。もし、自分が無性愛者でなければ、自分は父へ愛してくれた分の愛情を気持ちで、もしくは行動で返せたのだろうか。要には血を分けた家族であろうとばっさりと切り捨てられる自信らしきものがあった。それはやはり間違いではなかった。
人を何故、愛せないのだろうか。どうして自分は普通でないのか。
たまらなく悔しく、たまらなく憎かった。
ただひたすらに懺悔をしたかった。できるなら神にどうして自分をこのようにしたのか問い質したかった。
要の頬を涙がするりと滑りおりた。それから堰を切ったかのように、涙ははらはらと零れ落ちた。
はじめは葬式の参列者と同じく、自分も涙を流したのだとは気付かず、自分の頬に触れて初めて、頬を静かに濡らす液体が涙であることを認知した。
映画などの物語には必ず〈愛〉が存在する。恋愛感情としての愛でなくとも、友愛だったりの仲間感情。要にはそれが理解出来なかったから、映画やテレビを見て泣くことはなかった。また、それを見て泣く家族や友人が不思議で仕方なかった。何でそんなことで泣けるの、と。
けれど。
―――泣いている?自分が?
自分が泣いていることが信じられなかった。それでも次から次へと溢れ出る涙は認めざるを得なかった。認めれば、それ以上に滴は零れた。
やがて要は参列者と同じように声を殺して父の死を悼んでいた。
そんな要の肩を隣に座る母も、やはり泣きながら抱き寄せた。すると一層涙が零れて、止まらなかった。なにより流れる涙を止める術を知らなかった。
―――ああ、僕って泣けたんだ。
妙な感慨が自身の胸の内を満たしていく。
要はそのまま、涙が止まるまで泣いていた。
Fin.
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少し無性愛とは違ったかもしれません。すみませんでした。
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