Aの憂鬱、bの純情29
しかしジョットはアラウディの明らかな怒気にも引かず、しごく真面目だった。
考え深い橙色の眼差しで真摯に見つめられると何故か、分が悪いようなそんな気がしてくるから不思議である。
確かジョットは自分と会えばおどおどと決まり悪そうに黙り込んでしまうのが常だったのに、なかなか生意気な態度ではないか?
それに。
この目を見ると、からだを交えた夜を思い出してしまう。
アラウディは伏し目がちにツンと横を向いた。
「こちらを見てくれアラウディ。大事な話なんだ」
ふと腕をとられ、反射的に振り解こうとしたアラウディは微動だに出来なかった。
忘れていたがこいつは、腕っぷしだけは一級品なのだ。
「…………」
適わないのを知りながらもがくのはプライドが許さない。
舌打ちをして、アラウディはジョットを睨みつけた。
「最初に、見合いを断った話の誤解を解いておきたい。そうでないと話を聞き入れてくれそうにないからな」
「いいよ。サッサと言い訳してみせな」
偉そうにして結局見苦しい弁解?
アラウディはそう言いたげである。
「見合いを断ったのは、俺には心に決めたひとが居るからだ」
だが、思いもよらない言葉に嘲りさえ浮かんでいたアラウディの相貌が一気に色をうしなった。
あたまにドンと重い衝撃を受けたみたいだった。
一瞬にして喉がカラカラに渇く。
全身が青ざめて床に沈むような。
ああ、と、其処でアラウディは気付いた。
自分が動揺している、と。
立っていられるのが奇妙なほどだ。
「何、ソレ」
「デイモンにはこの世界でもっと力をつけるためには望まざる繋がりも時には必要だと随分説教を受けたが、俺もこれだけは譲れない」
何、ソレ。
次いで湧き上がってきたのは、怒りだった。
どこにもぶつけようがない苛立ち。
この感情には覚えがない。
ただ、何も知らなかった不器用で甘えん坊でどうしようもないへたれた目の前の男に『裏切られた』ような痛みが胸を侵蝕していった。
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