Aの憂鬱、bの純情27
慌てたのは雨月とナックルだ。
「突然なにをするのだ!?ジョットが己のマントにスマキにされているではないか!」
「だから茶会の時くらいマントは外せばどうかと言ったでござるよ…」
ナックルと雨月の言うとおり、ジョットはゴロゴロ転がったせいでマントが絡み、まるで巻き寿司のようになっていた。
だがジョットを助け起こそうとするナックルと雨月をGが制した。
ジョットのこととなれば、誰より心配する彼が平然としている(ただし心配している時でも気怠そうなのは変わらない)
二人はそれに気付いて、怒れる女王様と化したアラウディと現在ただの巻き寿司のジョットを順繰りに見守った。
「いきなり現れてボスを殴り倒すとは貴方らしくない真似をしますね。月の触りでも来たんですか」
紅茶を拭き取りながら嫌みを零すデイモンの背後でカーテンからちらちら見え隠れしているのはランポウである。
デイモンの軽口で、水色の瞳に更に苛立ちの炎をたぎらせたアラウディにヒイィッと怯え、ランポウは完全に隠れてしまった。
「別に…こいつが見合いを断った件でお前を責めちゃいねーよ、アラウディ」
静寂の中、Gが煙草の煙をふうっとくゆらせた。
当事者以外はこの言葉の意味を知るはずもない。
せっかく筆下ろしをして男にしてやったと言うのに、ジョットは見合いの話をあっさりと断ったのだ。
相手となる娘に会いもせず。
以前と同様に、女性を身近に寄せ付けない毎日であった。
この状態をどこで聞きつけたかは知らないが、アラウディが激昂した理由をGは見抜いていたのである。
「そんなことどうでもいいよ」
ネクタイをぎゅぎゅっとゆるめ、アラウディは冷え切った眼差しでジョットを射抜く。
あまりの怒りのためなのか、普段真っ白な頬が少し朱くなってきた。
「ねえ」
「僕があそこまでしたのに一体どういうつもり?何も進歩もない、腑抜けのままって」
ジョットはようやく半身を起こした。
あくまで端正で凛とした様子だが一筋垂れた鼻血により、台無しである。
「ちょうどお前に命じたいことがあったのだ。自分から来てくれて、助かった」
「は?」
しかし、ジョットが紡いだのは言い訳ではない。
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