Aの憂鬱、bの純情26



“それ”が起こったのは、珍しく守護者とボスだけでまったりとしていた昼下がり――

ジョットがナックルや雨月たちにお気に入りのパンナコッタを振る舞い、自らポットを手に紅茶を淹れてやるという誠に和やかな光景が広がっていた。

そんな平和な空気を切り裂いたのは、『バタァン』と荒々しく開け放たれた扉の音であった。

「なんだ、究極に騒々しいな、アラウディ!」

ナックルの諫めるような言葉が向けられた先には、その場に唯一居なかったアラウディの姿が。

一瞬、彼の名を聞いて瞳に喜びの色を走らせたジョットだったが、見慣れた金色の髪と細身のからだ…そこから立ちのぼるのは、底知れぬ殺気。
尋常ではない。

「よう」

パンナコッタを掬ったスプーンを咥えたまま目を見張っているナックルと雨月の脇で煙草をふかしているGが気怠げに声をかける。

ジョットはと言えば、視線はアラウディに向けてポットを傾けたままダラダラと紅茶を垂れ流し続けて

「あついあついいつまで淹れてるんです!?」

カップから溢れ、デイモンの手にまで茶をご馳走している。

「………」

氷の女王、と言うのは童話の世界の人物だが、今のアラウディはまさにそんな雰囲気だ。

凍てついた氷のような蒼い瞳に何の感情も宿していない人形のごとく真っ白な顔立ち。

つかつかと部屋に入り真っ直ぐ向かったのはジョットの元だ。

「どうした、アラウ…ぅぐァ!?」

名前すら最後まで言わせることなく、アラウディの拳がジョットの横っ面に炸裂する。

「熱っ、熱いですってさっきから!」

ポットを持ったまま殴られたジョットは熱い紅茶を撒き散らしながら(そしてその飛沫をすべてデイモンにかけつつ)、ゴロゴロと床に転がった。


「よくも、僕に恥をかかせてくれたね」

息を弾ませ吐いたのはたった一言。

普段無口ではあるが決して荒っぽい行動をとることがないアラウディとは思えぬ振る舞いであった。










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