Aの憂鬱、bの純情22
ジョットは不器用な質ではあるが、戦闘テクニックとなれば話は全く別であった。
元々からだを動かすのが得意なのだ。
乾いた地面が水を吸収するように覚えて技術を自分のものにする。
性技も一種のスポーツといえるのかもしれない。
身を引こうがもがこうが、態勢を変えて柔軟に対応するジョットは徐々に息を切らせるも律動のペースを崩さなかった。
アラウディが懇切丁寧に伝授した愛撫は今やアラウディ自身を更に追い詰める要因だ。
「痛い、のか?」
大事そうにアラウディの頬に触れる手のひら。
それでやっと、こめかみに伝う涙の雫に気がついた。
首を横にふるかわりに、アラウディはジョットをなけなしのプライドで睨む。
「ずいぶんと覚えが…いいじゃないか、…きみを、見くびってい…っア!」
ぬちゅりと卑猥な音と共にアラウディは喉をそらした。
既にそこには計算はなかったが、かえって艶めかしい色香をほとばしらせる姿にジョットが更に燃えたぎるのも仕様がないことである。
何しろ、覚えたての若い雄なのだ。
「もう、じょうずだって ほめてくれないのか」
そんな余裕がどこにある。
できるなら、頭を思い切りはたいてやりたい。
彼の右腕の気持ちが芯からわかる日が来ようとは…
しかし、ジョットは真剣だった。
自分だけではなく、アラウディにも満足して貰わねば意味がないのだ。
できればお褒めの言葉が得られると嬉しい。
「…もっとほかに いうこと、ないの」
「すまない…なんて言えば、おまえは喜んでくれる?」
「っ、自分で考えろ」
いよいよ、抗えない波に飲まれそうだ。
たまにはこういうのもいいかも知れない。
開き直ったアラウディはそう思いかけていた。
何も考えずに相手の熱に溺れる夜があっても構わないだろう。
その相手が例え童貞を卒業したばかりのボスでも。
たかが、ジョットの分際で。
もう一度心で毒づきつつ、アラウディは両腕をジョットの首にからめ、きゅっと締まる結合部に、ジョットも後には引けなくなった。
高圧的で手厳しくて、意地悪したかと思えば優しい、そんな掴みどころのない彼が喘ぎながら自分に抱き付いてくるなんて。
「アラウディ…」
なんて。
なんて可愛いんだ…!
「すきだ」
だが、洒落た言葉などジョットから出てくるはずもない。
「きれいだ、アラウディ」
そういえば、アラウディのことが苦手だった。
ナックルに紹介された日から。
彼の青い青い眼差しに射られるだけで挙動が落ち着かなくなり、話しかけられようものなら、胸がドキマギしてロクな返しが出来ずに自己嫌悪に陥る。
こればかりを繰り返していた。
「お前がすきだ、」
もうアラウディが嬌声を我慢することはなかった。
白い足が宙を掻いてジョットの腰を抱く。
「それ、わるくないよ」
「もっと言って」
掠れた声。
ジョットは頷いて命じられたままに、つたない愛の言葉を囁いた。
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