Aの憂鬱、bの純情7


チェリーとはこんなにも無力なものなのか。

「いや、あの…」

手をしっかり繋がれて執務室の奥の扉からジョットの私室へ。

ジョットは繋がり合った手と手にドギマギした。
アラウディに触れるのは、これが初めてだった。
ひんやりしたしろい手のひらだ。
すこしやわらかい。

「なに」
「その、つまりGが」
「きみのママンがなに」

Gは右腕であってママンではない。
そう言いたかったがとりあえず今は諦める。

「Gが言っていた。俺が男が好きとかいう噂があると」
「ふゥン?」
「……、その噂が本当になるようなことをするというのも…だな、」

ベッドに腰をおろし向かい合わせになって、ジョットはおずおずと考えを述べた。
自分の意見が間違いではない自信はある。


が、アラウディは淡々とジャケットを脱いでいく。
行動がイヤになるほど事務的である。

「悪かったね。僕が男で」

はっ、と顔をあげた。
不機嫌な物言いだったが、アラウディは変わらず無表情のままだった。


しかし、失敗した。と、わかった。

アラウディを傷つけるつもりは毛頭なかったのだ。

「ちがう。そんなことを責めてるんじゃないアラウディ。俺がお前に迷惑をかけているんだ。……お前に俺の相手を、ええと…引き受けて貰えたのは正直、嬉しいんだが」

だって顔は超好みだ。
この顔を知ってしまっては他の女がどんなにめかし込んでいても全部同じ顔に見えるほど。
(さすがに其れは言わないが)

「そう。よかったよ」

懸命に言葉を選ぶジョットに誠実さを見て取ってくれたのか、声音が和らいだ。


ああ…―――

やはり、とびきり美しい。
どの表情も魅力的だが特に優しげな微笑みは絶品だ。


だが。決して、くちには出さないジョットだった。

無粋な自分がこんな都会生まれの都会育ちの相手を喜ばす言葉を言えるはずがないからだ。


黙ってうっとり見惚れていたら、突然、しろい腕がシュルリと伸びてきた。
あっという間に捕まえられてしまう。

「知り合って何年もたつのに、抱き合うなんて初めてだね」
「あっ、ああ」

うわわわわ、

こんな急に胸に抱き寄せられては声にならぬ悲鳴ばかりがジョットの中を吹き荒れる。

しかもなんて良い匂いをさせているのだろうか。
香水なのか、アラウディが本来から持っている香りなのかわからないが。

ジョットは何故か息を殺してまったく動かずにいた。
普段、屋敷に立ち寄りもせず、不必要に口をきく事もないアラウディの体温が今はあまりにも身近だった。


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2012.4.4










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