Aの憂鬱、bの純情6
よくしてあげる?
「何を?」
不思議そうにキョトンとするジョットに、楽しそうなアラウディは何も答えない。
「じゃあ。後は2人で。仕事のほうは心配するなよジョット」
「G。どこに……」
そそくさと去ってゆくGに、何となく心細く思うのか、ジョットはまたあの儚げな瞳を向けてくる。
少しばかり胸が痛むような気はしたがGは、今日ばかりは甘えさせてなるものかと、素知らぬ顔で扉を閉めた。
「………」
「…………」
Gの消えた扉をチラリと見やると、アラウディは喉の奥でくっ、と笑ったようだった。
「さあ、寝室に行こう」
「???」
「もったいぶるのは好きじゃない。僕は忙しいからね…」
しんしつ。
しんしつにいく?
疑問符ばかりのジョットの様子はなかなか可愛らしい。
アラウディは知らず舌なめずりをした。
何も知らないクセにどこかしら高貴な空気を身に纏うこの青年の味は、どんなものかと期待してしまう。
「カマトトぶるんじゃないよ、君も男だろう?それともセックスには興味がないの?」
ズバリ、露骨な単語がアラウディの、それこそ花のようなくちびるから零れてジョットは切れ長の瞳を倍ほども見開いた。
「セ、…!?」
「彼が僕に依頼したのは筆おろしだよ。君の」
「!!やっぱり女だったのかアラウディ」
「男だよバカ」
「なに…Gはお前が男と知った上でふ、筆おろしを頼んだのか」
「当たり前でしょバカ」
おお……
ジョットは心から嘆息して再び俯いて考え込んだ。
「いいから早くして」
「!!痛っ、痛いぞ!引っ張るな!」
耳たぶをキリキリ摘まれてジョットは無理矢理に立たされる。
「しかし、そんなことお前にさせる訳にはいかない…」
「いやなのかい?」
「いやとか、そういう問題じゃない」
立ってみると、アラウディの方が僅かに背が高い。
まるで兄にたしなめられる弟のような気分だ。
「お前には迷惑だろう。俺がボスという立場だから断りにくかったのだろうが…、そうでなければ俺なんかの相手など…」
は、とアラウディは乾いた溜め息をついた。
「ボスであろうが無かろうが、したくない仕事なら引き受けないさ。僕は自由だもの」
アラウディ本人にそう言われてはジョットも二の句がつげない。
「まっさらに降り積もった一面の雪を踏み荒らす快感は何ものにも代え難いからね」
優しげになんて事を言うんだ……
気のせいではないだろう。
アラウディは、とんでもなく「乗り気」なのだ。
背筋が寒い。
だが、引き受けたアラウディと右腕のたっての希望を思えば逃げ出すわけにも行かず…
卑劣な悪には無敵なジョットだが、この場ではただのチェリーボーイである。
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2012.4.3