Aの憂鬱、bの純情5

事の顛末を聞いたアラウディは、冷たい笑みでジョットを見下ろした。
見なくてもわかった。
視界の隅の隅で察知したジョットは、あたまに入りそうもない書類の上辺を目で追う。

「君って男は実に滑稽だね、ボス」

こういう時だけ何故ボスと呼ぶ……

「僕、女装なんかしてなかったはずだけどね…ボス。おんなだと思って捕まえたとして、それからどうしたかったのかな…ねえ?」

アラウディ。
なんて愉快そうなんだ………。

立派な椅子に着席したままジョットは肘をついてそこに額を俯け、ひたすら自分の過ちに食いつかれるのを懸命にポーカーフェイスで堪えていた。

「そう言ってやらないでくれねーか。コイツが顔に目が眩んで追っかけるなんざ其れまでも其れからも、一回もなかったんだぜ」
「もしかして、それが僕への依頼のきっかけかい」
「ああ。ジョットは運命を感じちまう程、お前の顔が好みで仕方ないらしいからな」

本人の目の前でそれを言うのか。

一体右腕はどういうつもりなのか。

もしや、今まで散々無茶に巻き込んできた恨みつらみが爆発して、チクチク痛めつけられているのか…?

色々とGにかけてきた迷惑を思い返しながら、ジョットの少年のままの繊細な心はもはやボロ雑巾のようであった。

「あのな、G。本当に止めてくれないかその言い方」

「ちがうの?」

アラウディが机に手をつき、顔を覗き込んでくる。
いやでもまともに目があった。

あの時と変わらず、暗闇でも燦々ときらめくような水色の瞳だ。
長い長いまつげの落とす淡い影まで思わずジッと見とれてしまいそうな美貌。


こいつにこんな風に見つめられて、目をそらせる奴などいるのだろうか?

「――――」

ジョットは漸く観念した。


「ちが、………、わない…………」

「そう」

ふ、っとアラウディの眼差しが緩んだ。
やさしい顔になると、ますます綺麗になる。

しろい指先が伸びてきて、そうっとジョットの細い顎を上向けた。


「僕に任せるといいよ。よくしてあげる」


**


2012.4.2






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