Aの憂鬱、bの純情2

ずる、とジョットが椅子の背もたれに沈んだ。

「何を言い出すかと思えば。そんなくだらんことを」

バン!
ジョットの呆れた返事とGが平手を机上に叩きつけるのが同時だった。
ジョットが再びビクンと跳ねる。

「ななななんだ」

Gは相当怒っている。
ジョットが単独で無茶をした時のように、本気で怒っている。

だが理由は「童貞」?
自分は童貞であるというそんな取るに足らぬ事柄で怒られているのか?

「そろそろ女の扱いのひとつでも覚えろっつってんだ。テメェがあしらえねーからって俺がどんだけ苦労させられてるか!」

大きなパーティーの席で言い寄る女性は数多といるのに、見た目に反し、無垢な下町少年のまま今の立場についてしまったジョットは女性に囲まれると弱り果て、迷子の仔犬の目でGに縋るのだ。

自分の娘をジョットとねんごろに、と望む有力者もいる。
相手が女であると、途端にうろたえるのでは、やはりボスとして不安だ。

「わ、悪いとは思っている…けど、なんというか…苦手なんだ。女性というのは傷付きやすいから下手なことも言えないし…」

Gはこめかみを指で押して紛らわし、気持ちをなんとか鎮めようと努力した。

「いつまでも苦手で通すワケにはいかねーだろ。この頃は妙な噂まで流れてるぜ」
「噂?」
「おまえが男のが好きだと」
「はぁ」
「はぁじゃねえシバくぞ」
「うわっ?」

早速怒りの限界がきてしまうG。

頭を庇って防御するジョットだが面倒見のいい右腕の言いたいことはわかった。
Gには苦労をかけている。
気の毒とも思う。

だがジョットが自警団を作ったのは街を守りたいからだ。

その事と女の扱いの上手い下手は、果たして関係があるだろうか?

「とりあえず、おまえは女のひとりやふたり一分でイかせるテクでも身に付けとけ。脱・童貞すりゃ、なんか変わるだろ。ハーレム作れとまで言わねーが。デスクワークは俺とデイモンで引き受けてやるから、当面のおまえの仕事はそれだ」
「おおざっぱ過ぎるだろG。脱・童貞したからって俺の野暮ったい性格がガラリと変わるとは思えないんだが。だいたい街を守るのになんでテクが必要なんだ?何かがブレてはいないか痛ぁッ!」

Gのご機嫌ナナメがいよいよピークでジョットは再び叩かれた頭がクラクラとしている。

「おまえは黙ってろ。…いや。そんだけ自分が分かってりゃ伸びしろある…と思いてートコだな。もう手は打ってある」

ジョットの視界はまだ揺れていたがGは気にせず、執務室の扉を振り返った。
打ち合わせはすでに、すんでいたのだ。

ガチャリとノブが回って其処から現れた細身の人物は、ジョットの顔見知りだった。

「やぁ」
「…………アラウディ」

「脱・童貞」とアラウディが珍しく自分のもとを訪れたということの関連が読めず、ジョットはキョトンとして首を傾げた。

そんなボスの姿をアラウディが上から下、さらに下から上へと舐めるように見つめてくる。
静かな湖面のように美しい水色の瞳が、まるで格下のものを見下ろすような冷たさに満ちていた。

これは、値踏みする目だ。

直感的にそう感じ取ったジョットは、自分の部屋にも関わらず居心地悪くなる。

精緻な人形みたいな容貌もあいまって、物怖じしない性質のジョットが唯一、一歩引いてしまう存在。
それがアラウディだった。




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2012.3.26






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